三夜目明けて



夢を見ている間に眠りが深くなって、それからしばらく経って目が覚めた。ぼんやりする頭で必死に昨日見た光景を思い出す。

男は大きな手裏剣を使っていた。ってことはたぶん忍者だ。いきなり俺の後ろに回り込んだりしてたし。うん、忍者だ。俺の記憶だと二回、あの男が言うには三回会ってるらしいからきっと今日も会う。会うと分かってる。いや、意地でも会ってやる。

会うだけじゃダメだ。どうにかして一泡吹かせてやりたい。俺の安眠を妨害したどころか二度も殺されたんだからな。


「つーわけでどうやったらその忍者ぶっ飛ばせるか考えて」
「お前おかしくね?普通どうやったらそんな夢見ないで済むかって方向で考えるだろ」
「アホ、やられっぱらしは癪に障るんだよ」
「隈こさえてよく言うよ…」


目の下を指差し、呆れたような顔をするのは友人A、もとい昭人。話のネタに夢の話をしてたら思い出してイライラしてきた。そして思考はどうやったらあいつをぶっ飛ばせるかにシフトチェンジ。

休み時間で騒がしい教室の中、後ろ向きに座った昭人は俺のノートに落書きを始めた。特に真面目にノートをとっているわけでもないので好きなようにさせる。


「えーっと、相手忍者なんだろ?どういう系?なんちゃって忍者?真面目忍者?」
「なんちゃって。頭が派手だったし人魂みたいなの飛んでた」
「ナルト系か」
「いや…もっと等身高かったからたぶん違うな」
「んじゃ無双系」
「ああ、それ近い」


パチン、と指を鳴らす。服装ははっきりとは思い出せないが、洋服のような形ではなかった気がする。戦闘スタイルも忍術じゃなくて手裏剣を使った肉弾戦タイプ。無双、と考えるとあの人魂も属性のようなものかもしれない。

昭人はノートに『無双系』と書き、その下に何やら名前を羅列し始めた。曰く、


「相手が忍者ならこっちも忍者でしょ」


とのことらしい。たしかにあのスピードに対抗するには同レベルの戦闘能力が欲しいが…それをどうしろってんだ。


「忍者っつったら半蔵だろ、風魔だろ、あとはくのいちに…おねね様か。んじゃおねね様しかねえな」
「なんで」
「だっておねね様分身使えるし、速いし、攻撃中の移動距離が長いからヒット数稼げるし、普通に強い。でもさ、おねね様をどうすんの?」


そう、問題はそこ。ゲームのキャラクターを夢の中に登場させたことはない。試したこともないからできるか分からない。ねねに守ってもらうってのも情けない話だし…。


「おねね様の『分身だよっ!』で足止めしてもらうとか?」
「裏声キモイからやめろ」
「真面目に考えてるのに!」
「なお質悪いわ、アホ」


放っておくと妙な案しか出さなさそうな昭人に、俺が見れる明晰夢の範囲を教えた。

まず、意識して自分以外の人間を登場させることはできない。たぶん夢の中という朧げな状態で二人分の思考を動かすほどの余裕がないせい。

そして、自己暗示さえかければ大抵のことはできる。例えば空を飛んだり、超人的な身体能力を得たりといったこと。寝が深すぎるとイメージが追いつかなかったりするが。


「なんつーか、夢に体を慣らさないと動き辛いんだよ。昨日、一昨日って見てるからもうある程度の融通は利くと思うけど」
「ごめん、その感覚が分からない」
「え」
「え、って…え!?マジでいってんの!?そもそも夢ってそんなに見ないから!しかもそこまで覚えてないし!」


一晩に複数回夢を見ることなんてザラだし、小学校の頃に見た夢まで覚えてるのに。明晰夢自体は訓練すれば見れるようになるものらしいから、そう深く考える必要もないか。

しばらくはそうやって俺と昭人の夢の認識の違いを言い合い、最終的に俺自身がねねのモーションをコピーして闘うという方向で話はまとまった。やることといったら寝る前にゲームでモーションを確認するくらい。

おねね様はやっぱり強い。これならあの忍者も倒せるような気がする。



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後肢