三夜目



また、俺は森の中にいた。これにはさすがに驚いた。二日続けて同じ夢を見るなんて、今までになかったことだ。

空は真っ暗なのに、辺りはよく見える。今日もまたあの男が現れるのだろうか。昨日よりは動ける。もしまた殺されそうになったら、少しは抵抗できる。

そこにいるんだろとでも言うように、暗い森の奥に視線を向けた。浮かび上がる橙色。まるで炎のように逆立つ髪に、辺りが一気に明るくなった気がする。


「はは…俺様、悪い夢でも見てんのかね」


冷たい笑み。その奥に戸惑いと焦りを隠している。どうやら全く同じ夢というわけでもないらしい。悪い夢というのも、あながち間違いではない。


「知らない人間と夢で二度も会うのは初めてだ」
「二度?三度の間違いだろ。それに夢って何さ」


笑みの形を作っていた顔が崩れた。手元で大振りな何かが回っている。俺の想像から外れているのか、その形までは認識できない。


「仏の顔も三度まで。猿の顔は…どうだろうね」


手元の何かを放るような動作。夢だからという言葉を頭の中で繰り返す。夢だから、動ける、避けられる。顔面目掛けて飛んできたそれを、寸でのところで屈んで避けた。


「あはー、それ避けちゃう?」


おどけたような声が耳元に響く。反射的に右腕を振れば、男の鼻先をわずかに掠めた。もっと動ければいいのに、イメージが追いつかない。二撃目が来ると分かっても、避けられそうになかった。


「さあ捕まえたぜ。言いな、あんたの正体と目的を」


腕を跨ぐようにして地面に刺さる大振りの手裏剣。あれは手裏剣だったのか。やっぱり形はよく分からない。

髪を鷲掴みにされ、無理矢理正面を向かされた。月を背負い、闇にも似た笑みが浮かんでいる。


「見たとこ普通の人間なんだけどな。もうその見た目には騙されない」


人魂、だろうか。男の周りを飛び交う何か。俺から出て、男に入るそれ。ただ純粋に“面白い”と思った。

腕に感覚はない。もう切り離されてしまったのかもしれない。さすがにこの夢にも疲れてきた。


「夢は覚める」
「はあ?」
「今日は逆だな」
「…時間稼ぎのつもりなら、無意味だぜ」


まさか。稼ぐも何も、もう時間なんて残ってないんだよ。


「お別れだ」


目は覚めない。視界が赤に染まる。もっと深い眠りへと、意識は落ちた。



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後肢