二夜目明けて



「っあ、ぶねえ…!」


汗で貼り付く前髪を右手で掻き上げ、左手は庇うように背中へと伸びる。当然そこには何もない。痛みもないし、手の平が血で濡れるようなこともない。それでも落ち着かなくて、やけに冷たい手の甲を唇に押し当てた。

もう俺を殺した男の顔はほとんど思い出せないのに、炎を透かしたような橙色だけが瞼の裏にちらついて離れない。変な夢だった。それだけは確かだ。

何か…会話が噛み合わなかった気がする。あと、森の中…たぶん夜中で、前にも会ったことがあるようなことを言ってたような…。


「あー…あんまし思い出せねえ」


俺は一度見た夢はなるべく思い出すようにしてる。いい夢も悪い夢もあやふやなままだとすっきりしないってのが一番の理由だが、これは明晰夢を見るための訓練になるらしい。明晰夢の存在を知ったのはつい最近。それ自体は中学の頃には見れるようになっていた。


「あーあ、目え覚めちまった」


カーテンの隙間から光の線が伸びる。時計を見れば短針は六の上。だいふ早いが、たまには早起きもいいだろう。伸びをひとつして、俺はベッドから降りた。



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後肢