二夜目



森の中にいた。

なぜ森の中にいたのかは分からない。意味もなく、道とも呼べなさそうな草むらを歩く。

既視感。前に来たことのある場所なのかもしれない。見下ろせば普段着を着ていた。それに違和感を感じる。


「…あんた、一体何者なわけ」


誰かの声がしたので振り返った。深緑の中に鮮やかな橙色が浮いている。射るような一対の目。俺は、この男を知らない。


「はあ…。まただんまり?流石に二度目となると楽に死なせてやれないぜ」


また、とはなんだ。会ったことがあるのか。そういう“設定”なのか。分からず、首を傾げる。男は相変わらず、怪訝な顔で睨んでいる。


「得体が知れないね、あんた」


警戒している?誰を?俺を?…馬鹿だ。俺は闘えないのに。

ぼんやりしている間に、男が目の前から消えた。たぶん背後だ。ほら、腕を掴まれた。


「吐け。全部だ」


重く響く、低い声。何かが背中に食い込んでいる。きっと血が出てる。ああ、なんて冷たい顔。見えないけれど、分かる。

でも吐けとは何をだ。俺は何もしていない。いや、何かした設定なのか?分からない、分からない。


「あんたは昨日、確かに俺様が殺した。殺し損ねるようなヘマはしてない。なのに何故、あんたは生きてる」


殺された?そんなはずはない。俺とこいつは初対面。誰かに殺された覚えもない。生きてて当然だ。意味が分からない。


「答えろ」


腕があらぬ方向に曲げられる。背中が熱い。息がしづらい。肺に穴が空いたような感覚。相変わらず、痛みはない。

男は一方的に誤解している。これはきっと、解けないんだろう。


「…お前、誰だ」


どうしてそんなことを聞いたのか。死んだ今となっては分からない。



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後肢