五夜目明けて針五つ



「あ!起きた!お前電話しても出ないしメールしても返事くれないからすげえ心配したんだぞ!」
「…なんでお前が俺の部屋にいんだよ」


起き抜けの頭を乱暴に掻きながら携帯を探そうとしたら、聞き覚えのありすぎる声がして動きが止まった。部屋が異様に暗い。ああ、もう夜なのか。


「いやさー、最近変だから大丈夫なんかなあと思った矢先に休むから気になって。ほい、スポドリ」
「さんきゅ。昨日の夜は最悪だったよ。今久々にまともな夢見たけどな」
「あれ、起こさない方が良かった?」
「まあな。つーか何さも当たり前のように寛いでんだよてめえは」
「いたい!」


受け取ったスポーツドリンクを飲んだ後、キャップを締めて昭人の頭をぶっ叩いた。

見舞いに来てくれたのならありがたいが、肝心の相手が寝てる時点で帰れ。もしくはリビングにでもいろ。なんでそこで漫画なんか読んでやがるんだお前は。

しばらく大袈裟に悶絶していた昭人だが、俺が部屋を出ると慌ててついてきた。だから!トイレに行くだけだからついてくるなっての!


「おい駄犬。ハウス」
「俺犬じゃねえよ!?」
「うっせ、便所までついてくんな」
「だってよお…」
「だってもクソもあるか。あ、まさかお前…そういう趣味でもあるのか…」
「蒼介は俺をなんだと思ってるのよ…」
「馬鹿?」
「おっしゃる通りです」


なんだかんだと言い合いつつ、昭人は結局トイレの前までついて来た。もうどうでもいいかと構わず用を足す。扉の向こう側からは、普段より覇気のない声が聞こえてきた。

“このまま起きないんじゃないかって、怖かった”

やけにしおらしいことを言う。おとぎ話じゃあるまいし、と笑い飛ばしてやりたい。でも、それができない。俺自身がその可能性を感じてしまっていたからだ。

今日みた夢は今までとだいぶ雰囲気の違う夢だったが、それでも世界自体は同じだった。なんとなくそういうものだと分かった。夜だけでなく、昼まであちらの世界に引っ張られつつある。このまま呑み込まれてもおかしくないと、頭のどこかで感じているんだ。


「…あのさ、その夢に俺も出ることってできない?」


トイレから出ると、昭人は珍しく真面目な声でそう言った。俺よりもずっと、追い詰められたような顔だ。はあ…こいつってホント、馬鹿。


「できない」
「やっぱそうだよな…」
「が、今の俺ならたぶんできる」
「え!?マジで!?」


このお人好し。心の中でそう呟いて、昭人の額を指先で弾く。


「夢の中にお前を出すことはできる。けどお前自身が夢の中に入るわけじゃないからな」
「あ、そうか…そうなるのか…」
「どうせ足手まといになるから出てくんなよ」
「ひっでー!人がせっかく心配してやってるのに!」


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後肢