五夜目明けて
目が覚めるなり真っ先にトイレに駆け込んだ。胃の中が空っぽになっても、吐き気も寒気も震えも治まらない。ようやくトイレから這い出して洗面所で顔を洗う頃には、今日一日分の体力を使い果たしたような気分になっていた。
「うっわ…死んでるよコイツ…」
思わずそんな感想が漏れるくらい酷い顔。母さんも朝から騒がしい俺を心配して様子を見に来たが、顔を見るなり学校は休めと言い出した。母さんが休めって言うなんて、よっぽどのことだ。
「何よあんた、風邪でも引いたの?熱は…なさそうね」
「んー。たぶん寝不足。最近寝が浅いから」
「とりあえず今日一日寝てなさい。明日も駄目なようなら病院連れてくから」
「へーい」
額に当てられた母さんの手はあったかくて、なんとなくホッとした。
それから急遽お粥に変更された朝ご飯を食べて、何かあったらすぐに連絡しろと残して仕事に出掛ける両親に手を振った。
布団に入って目を閉じれば嫌でもあの男の姿が浮かんでくる。相変わらず痛みはないし意識も鈍いが、毎夜見る夢は着実に具体性を増している。
これだけ夢で殺されてるんだ、いつか夢に殺されてもおかしくない。
「…昼間ならあいつに会わずに済むかな」
そうでも言い聞かせなきゃ、眠ることすらできなかった。
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