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「…つまり、ユウトはどこか遠い場所から知らない間にここへ来て、なんでか手持ちのヴィッレアだけが人に見えるし言葉も分かるってんだな」


プラットの言葉に、こくりと小さく頷く。薪を囲む影は俺とヴィッレアにプラット、そしてプラットのズルズキンが増えて四つになっていた。プラットのズルズキンはムギーという名前らしい。ヴィッレアと同じズルズキンなら人に見えるかもしれないとプラットがわざわざボールから出してくれたが、ムギーは俺の目にもズルズキンとして映った。

全部話してから少しだけ後悔した。だって、プラットにはポケモンに見えてるのに普通に喋ってる俺はきっと変な奴だ。ズルズキンはテレパシーも波導も使えない。

それでも、誰かに聞いて欲しかった。


「難しいことはよく分かんないけど、あんまり人に言わない方がいいかもな」
「そう、だよね…」
「でもいいな、ユウトにはヴィッレアの言葉が分かるんだろ?俺もムギーが何考えてるかは大体分かるけど、全部は分からない」
「…気持ち悪くない?」
「全然」


恐る恐る顔を上げると、ニッと笑うプラットと目が合った。俺の隣に座るヴィッレアが悪戯っぽく口角を持ち上げる。ムギーは…どんな顔をしたのか分からないけど。

全部話せて、それを受け入れてもらえて、ようやく心が軽くなった。まだ自分の身に何が起こったのかも分からないけど、それでも現状はずっと良くなったと思う。その証拠に、今の俺はちゃんと笑えてる。


「じゃ、俺たちの出会いを祝してー」
「祝して?」
「焼きモモン食べようぜ。モモンの実は焼くと甘みが増して美味いんだ」
「モモンの実…初めて食べる」
「それもすごいな。じゃあ俺たちの出会いプラスユウトの初モモンを祝う」


プラットはカバンの中身を漁ると、桃によく似たモモンの実を数個と鉄製の串を取り出した。串は野宿用にいつも持ち歩いているらしい。かさばらないし、意外と使い道があるから便利なんだとか。

モモンの実が焼けるのを待つ間、俺はずっと気になっていたことをプラットに尋ねた。


「あのさ、プラットってもしかして兄弟とかいる?」
「うん。兄貴が一人。よく分かったなー」
「それって…シンオウ地方のジムリーダー、だったりとかは…」
「するする!ナギサシティって所のジムリーダーやってる!うわあ、こっち来て兄貴知ってる人に会うの初めてだ!」


プラットはあのジムリーダー…デンジによく似ていた。ヴィッレアがバチュルと形容する髪型に、青い瞳。ゲームの中で見た彼よりずっと活き活きとした目をしているから正直自信はなかったけど、俺の勘は当たっていたらしい。


「ユウトってシンオウ来たことあるの?」
「ないけど…知ってはいる、かな…?」
「そっかー。じゃあ俺とシンオウ行ってみない?良い所だよ、イッシュより寒いけど」
「そ、そんな、俺お金持ってないし…!」
「兄貴に出させるから大丈夫。友達連れてくって言えば喜んで出す。あ、その前に元いた所に帰るのが先か…」
「あ、その…ゴメン、まだ話してないことが、あるんだけど…」


もうこの際だから全部喋ってしまおう。自分一人で抱えるには大きすぎる問題だし、信じてもらえなくても話を聞いてもらえるだけでいい。何よりきちんと言葉にして自分に言い聞かせないと、いつまで経っても俺はこのことから目を逸らしてしまう気がした。


「俺、さ。たぶん、ここじゃない、別の世界から来たんだ」



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