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「あたしがヴィッレアだってこと、一個ずつ証明してくか?」


そう言って彼女がまず見せてくれたのは、龍の舞だった。力強い舞。動きに合わせて薪から火の粉が上がって、何と言うか…かっこ良かった。

次に見せてくれたのはドレインパンチ。光る拳が岩壁に叩き付けられ、轟音とともに岩が砕ける。この音で飛び起きたズルッグたちが慌てて逃げようとするのを、二人だけで抑えるのは大変だった。

そして、この一連のやり取りは思わぬ副産物を生んだ。





「すみませーん!誰かいますかー!」


薪の灯り、それと轟音を聞きつけて人がやってきた。本能的に隠れようとしたけど、逃げるには火のない洞窟の奥へ進むしかない。それは正直、怖い。

どうしようか迷ってあたふたしている内に、薪の灯りは声の主を照らし出した。


「良かった!人がいた!いやあ、昼間にリゾートデザートに入ったんだけど、もたついてる間に陽が暮れちゃって困ってたんだよね」


本当に、次から次へといろいろなものが現れて落ち着く隙がない。現状すら把握しきれていない俺は迂闊なことも言えず、おろおろと視線を彷徨わせた。


「あ、ズルッグだ。すごいね、君に懐いてるの?」
「いや、このズルッグたちは…」
「あたしの子分」
「あの、えっと…彼女の子分、らしいです…」
「へえ、君のズルズキン、女の子なんだ。俺もオスのズルズキン持ってるよ」
「え?」


だから言っただろ、と彼女は笑う。頭が追いつかない。俺の目には確かに女の子として映ってる。でも、突然現れたこの男の人は彼女を一目見てズルズキンだと言った。おまけに、見た目からでは性別が分からなかったような口振り。

じゃあ、彼女の言葉は、


「俺プラット。君の名前は?」
「…ユウト、です」
「ねえユウト、年もたぶん同じくらいだし敬語じゃなくていいよ」
「はい…あ、うん」


どうしよう。どこから整理していけばいいんだ。また頭の中がぐちゃぐちゃだ。

龍の舞にドレインパンチ。これは俺が苦労して覚えさせた技。ヴィッレアが覚えている技と同じ。岩を砕くなんていうのも人間にできることじゃない。これを見て彼女がヴィッレアだと納得しかけた。

だけど、彼…プラットの言葉が更に俺の頭を混乱させる。俺には人の姿で見えているのに、プラットにはポケモンの姿で見えている。わけが、分からない。


「あの、彼女の名前はヴィッレアっていうんだけど、プラットにはどんな風に見えてるの…?」
「どんな風に?そりゃあ…ズルズキンだな。赤いトサカにヤンキーみたいな目、黄色い尻尾」
「じゃあ、言葉は…」
「言葉?鳴き声のこと?」
「あ、えっと…ヴィッレア、何か喋ってくれる?」
「こいつの頭バチュルみてえ」
「…今の、分かった?」
「え、何が?」


俺とプラットの間に疑問符が飛び交っている。

俺にはヴィッレアが人の姿に見えて、言葉も分かる。だけどプラットにはポケモンの姿に見えて、言葉も分からない。不思議そうに首を傾げて理由を聞いてくるプラットに、俺は考えのまとまらない頭で喋り続けた。



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