もしも、
(ゾロ視点)
数週間前、海で漂ってたそいつを拾ったのは俺だった。
『ゾロ、ひま』
「向こうでルフィ達と遊んで来い」
『ゾロは?』
「俺は忙しい」
どういう訳か俺が拾ったこいつ…ミズキは声が出なかった。チョッパーが診ても原因は分からず。けどまあ、本人が気にしてねえんだから俺達も気にしねえ。
筆談に関しては多少の不便はあれど特に問題はなし。筆談に関しては、な。
『筋肉バカ』
「あぁ!?」
『ってサンジが言ってた』
ミズキの問題はここだ。まるで九官鳥か何かみてえに人の言葉を鵜呑みにして遣いたがる。この船にこいつが乗ってからそんなに時間も経ってねえが、ラブコックだの非常食だの島に入ってはいけない病だの…マリモだの…。そういった類いの言葉は既に何度もメモ帳に書き込まれた。
ま、俺達自身も面白がって新しい言葉を教えたがるからな。
「じゃあクソコックはぐるぐる眉毛だ。もしくはダーツ」
『ダーツ?』
「ダーツの的みてえだろ」
『ああ』
「ウソップのパチンコでも借りてあの眉毛狙ってこい」
(こくり)
一つ頷いて素直に駆け出すミズキを見送り、欠伸を溢す。あの妙に馬鹿正直過ぎるところはどうかと思うが、それを面白がっている自分がいることもまた確か。まあ、そのままで良いだろ。俺は寝る。
『ゾロ』
と書かれたメモ帳で額を叩かれ、嫌々目を開ける。すると不機嫌そうなミズキが視界に映った。ったく、今さっきクソコックの所に行ったんじゃねえのかよ。
「もう戻ってきたのか?」
『サンジ、ダーツじゃない』
「は?」
『ハートになる』
…つまり、ぐるぐる素敵眉毛がハートになるから的にならねえって言いてえのかコイツは。別にあいつにさえ当たりゃあ何だって良いだ…。
「ミズキちゅわあーん!!俺のハートを狙い射ちだなんて君は恋のキューピッドかい!?」
(………)
「…ああ、俺が悪かった。あれじゃ的にしたくねえよな」
無言で睨むミズキの頭を数回叩いて宥める。それでもミズキの機嫌は直らず、口はへの字に曲げられたままだった。
…仕方ねえな。
「お前も寝ろ。俺の陰にいりゃクソコックも気付かねえだろ」
(?)
「昼寝だ昼寝」
もうてめえの相手をすんのは疲れた。俺がそう言って目を閉じれば、すぐにミズキの気配が隣へと移動した。ちらりと横目に見るとミズキはいつも通り、うつ伏せに寝転がっている。
本当に、妙な奴だと思う。
もしも、
あなた達の元へ辿り着いたなら、
世界は何色に変わっていたでしょう?