気の迷い



(サンジ視点)


ちくちく、すー。

ちくちく、すー…。


規則的な音が繰り返すラウンジ。頬杖ついてその光景を眺めるが、どうにも手元とそいつの顔とがしっくりしねえ。


「…んだよ。何かあるのか?」
「いや、別に何でもねえが…」
「ならあんましジロジロ見んな。やりづらい」


そう言って口を尖らせたライは恥ずかしさがあるのか、少しだけ頬を赤くした。

おいおいおい、これホントにライか?…ライだよな。でもやっぱりしっくりこなくて俺は首を傾げる。


ライが縫っているのは俺のYシャツのボタン。取れ掛かっていたそれをどうしようかと悩んでいたら、たまたま気付いたライが繕ってやると申し出たって訳だ。


「しっかし意外だな。お前こういうの苦手そうに見えんのに」
「派出所で他に出来る人がいなかったんだよ。ただでさえ海軍なんて男所帯だし」
「眼鏡の可愛らしいお姉さんがいたじゃねえか」
「…たしぎさんは無理。やらせる方が怖い」
「ああ?なんで」
「びっくりするくらいドジだから…」


そう言って遠い目をするライ。そのたしぎちゃんってのはよっぽどドジらしいな…。

しかし、人間見かけじゃ分からんもんだ。華奢とは言え野郎なのには変わりねえし、指だって…意外と細い?手も俺より小させえな。いっつも革手袋してるから気付かなかった。

体もなんつうか、薄いし。ちゃんと食わせてんのになんでこうも体重増えねえかな、こいつは。

あ、睫毛も長えな。唇は…。


「…って馬鹿か俺は!!!」
「うるせえ!邪魔すんなら出てけ!!」
「ばっ…!寄るな!俺にそんな趣味はねえっ!!」
「はあ?あんたなんでそんな顔赤いんだよ。風邪?」


熱があるならさっさとチョッパーに診てもらえ、と言ってライはまた繕い物の続きを始めた。それにほっと息を吐いて、転げ落ちた椅子の上に座り直す。

変に観察なんてするからいけねえんだ。声だけ聞いてりゃ良い。終わるまでの辛抱じゃねえか。そうだ、そうすりゃ良い。


俺は机に額を付けてライの顔を見ないようにした。だけど、本当はこの俺の赤くなった顔を見られたくなかっただけかもしれねえ…なんて、洒落にもならん話だ。




気の迷い

…だと、思いたい


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