仲がいい?心外です






軋む金属音、舞い散る火花。

一歩詰めては打ち合い、また離れるを繰り返す。互いの唇が弧を描くが、そこには一分の隙もない。

力比べになれば負けるのは目に見えてる。やっぱここはお得意の素早さで撹乱して…。

と、俺が右足を少しだけ引いた瞬間、手を叩く乾いた音が数回鳴り響いた。


「はいはい、あんたらそこら辺でやめにしないとぶつわよ」

「…はい」
「チッ」


ラウンジから手を叩きながら現れたのは我らが航海士。彼女はもう我慢できない、とでも言いたげな顔で俺達を睨んだ。…こーゆー状態のナミに逆らっても良いことなんか何一つないと俺は知っている。

ナミは俺とゾロを見比べ、船体を見回すと一層険しい表情を浮かべた。…物凄く怒っていらっしゃる。

だから素直に爪を引っ込め、殴られないようにそろりそろりと後退った。が、ゾロは不満顔で舌打ちを零す。おい、俺まで巻き込まれかねないからここは大人しく言うこと聞いとけって…。ほら、ナミも睨んでるから!


「あーもうっ!あんたらが暴れる度に船に傷が付くのよ!見なさい!」


彼女はそう怒鳴るや否や、ずばっと音がしそうな勢いで次々に指を差していく。その先にはぶった切られた柵、穴の空いた甲板、破れた海賊旗、エトセトラ…。

あ、あれ…?こんなに暴れたっけか…?


「おいてめえら!瀕死のメリーに止め刺すような真似してんじゃねえよ!」
「いや、悪い。こんなに酷くなるとは思わなくて…」
「てめえが避けるから斬撃が当たったんだな」
「あんたはさも俺のせいみたいに言うな!」


既に修理の体勢に入っていたウソップが手に持った金槌をこちらに向けて、怒りと悲しみとで涙ぐんだ目を拭った。う、ホント悪かったって…。

だ、だけど隣にいるこのマリモときたらどうだ。平然と人に罪を擦り付けやがって。

…なんか腹立ってきた。


「半分はあんたのせいだぞ」
「ああ?てめえがちょこまか逃げるからだろ」
「逃げたんじゃねえ、避けたんだ」


やんのか?やらいでか。

また一触即発、の空気が俺とゾロの間に流れる。これには先程まで怒っていたウソップも逃げ腰だ。

でもやっぱり、最後にこういう事態の収拾を付けるのは…。


「あんったらいい加減にしなさいよ!!」

「あだっ!」
「ってえ!」


ナミの鉄拳制裁。目の前に散った星に視界が揺らぐ。隣でゾロが何しやがんだと怒鳴ったが、ナミは自業自得よと流してさっさとラウンジに戻ってしまった。

ドアを閉める間際、夜までにきちんと直しておくのよ、と言ったナミには首を(何度も)縦に振っておく。





「…お前らよお、一体何が原因でこんな大喧嘩したんだ?それなりの理由があんだろ?」


ぷんすか怒りながらラウンジに戻って行ったナミを見送り、内緒話でもするようにウソップが声を潜めて言った。

それに俺とゾロは一度顔を見合せて、ウソップの方を向き直す。


「「俺達がいつ喧嘩なんかした?」」


首を傾げる俺と、腕を組んで訝しげな顔をするゾロ。態度は違えど、重なった言葉は全く同じだ。それにまた真似するなと言わんばかりに睨み合う(ナミに怒られた手前、怒鳴るような真似はしない)。


「へ?…いや待て待て。じゃあさっきまで派手に斬り合ってたのは何なんだよ」
「ああ、あれか?」
「あれはただ」

「「軽く手合わせしてただけだ…って真似すんじゃねえ!!」」


クソ!真似すんじゃねえまで真似すんな!

はいそこウソップくん!呆れた顔で溜め息吐かない!


「あー…お前らあれだ、仲が良いのはもう分かったから」

「「良くなんかねえって言ってんだろ!!」」






仲が良い?心です

(じゃあ仲が悪いのかって?)
(それもまた違うから微妙なんだ)


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