いっそ気ままになろう



ルフィが宴宣言をしてから、ことはあれよあれよと言う間に進んでしまった。皆一様に反対の声を上げはしたのだが、船長ルフィはどこ吹く風。楽しそうに宴の品をリクエストし続けるだけだった。そして最後には皆、口を揃えて“うちの船長は言い出したら聞かないんだ”と苦笑していた。ただ、青髪の女性だけは酷くおろおろしていたけど(彼女はまだ、この船に乗って日が浅いみたいだ)

宴の準備が進む最中、俺は一人船尾から揺れては消える白波を見詰めていた。日は傾き、辺りの海は深い青から憂いを帯びた橙へと色を変え始めている。付け直した口布と、目深に被った帽子の僅かな隙間にその橙が反射して、少しだけ眩しかった。


「命が助かったってのに、随分浮かない顔してるじゃない」
「はは、まあ立場が立場なんで…」


絶えることのない溜め息を吐き続けていたら、先程自己紹介を終えたばかりのナミが俺に声を掛けてくれた。彼女は俺の横に並ぶように立ち、静かに視線を白波へと落とした。


「初めて会ったばかりでなんだけど、あんた立場なんて気にするような人間?」


ああ、どうやら彼女は人を見るのが得意らしい。会って僅かしか経っていないのに、もう俺の本質を理解し始めている。そのことに少しだけ苦笑を零し、俺はゆっくりと、だけど強く言葉にした。


「どうしても迷惑を掛けたくない人がいるんだ」


俺に命と、名前と、生きる意味を与えてくれた人。あの人に言ったらきっと生意気言うなって殴られるんだろうけど、それでも俺はあの人に“恩返し”がしたい。恩を仇で返すような真似だけは、絶対にしたくなかった。

真っすぐに前だけを見続けて、揺れる白波や浮かぶ白雲にあの人を重ね合わせて、俺は誓うように目を閉じた。横でナミが息を飲むような顔をしていたのだけど、目を閉じていた俺は当然、気付くはずもなかった。

そして少し間を置いて、ナミがゆっくりと口を開く。


「じゃあ、あたし達には迷惑掛けても良いって言うの?」


皮肉混じりなその言葉が、不思議と俺には暖かく感じられた。それは、彼女がしかめっ面でそんな言葉を吐いたのではなく、不敵に口角を上げながら言ったからかもしれない。悪戯に笑う、そんな言葉がよく似合う。


「悪いけど、俺はスモーカーさん至上主義だから」


不敵に笑う彼女を真似るように、俺も口角を吊り上げて笑った。それを見たナミは溜め息混じりに小さく笑い、ならこっちもそれなりの対応をさせてもらうわ、と後ろ手に手を振って去って行った。

賑やかな夜は、もうすぐそこまで来ている。



いっそ気ままになろう


(6/55)


topboxCC