溜め息が止まらない



俺はルフィの発言に固まったまま、一言も発せられずにいた。助け舟を頼もうと回りを見渡してみても皆、目を見開いているか呆れ切っているか拳を震わせているかで、言葉を出せるような状態ではなかった。…誰も助け舟を出してくれそうにないな。仕方なく、俺は一つ息を吐いてからルフィに声を掛けた。


「…あのな、ルフィ。俺の格好分かるか?」
「おう!縛られてるな!」
「そうじゃなくて…」
「ん?じゃあなんだ?」


腕を組み、顔を顰めながら首を捻るルフィに俺はもう一度溜め息を吐いた。俺達はこんな奴に振り回されてんのか…。


「良いか?俺が着てるのは海軍の制服だ。つまり、お前らの敵だ」
「けどお前は俺達に攻撃してきてねえだろ?」
「今はな。本来ならこの船を見付けた段階で、俺がスモーカーさん達の乗った船に合図を送るつもりだったんだ」
「じゃあお前、俺達にケンカ売りに来たのか?」
「まあそんなとこ」


ルフィもようやく理解してくれたようで俺は安堵の溜め息を吐いた。だが、そう思ってほっとしたのは俺だけのようで、他のクルー達は皆、顔を顰めたままだった。なんだよ…まだ何かあるのか?


「なあ、お前、名前は?」


急にぐいっと顔を近付けて来たルフィ。あまりにも脈絡のない質問とその行動に一瞬たじろぎはしたが、俺はすぐに笑顔で答えた。


「ライだ。良い名前だろ?」


この名前は命よりも大切なものなんだと続けて、俺は零れる笑顔を崩すことなくルフィを見た。ルフィはただでさえ丸っこい目を更に丸くして、そのキラキラとした瞳に俺を映している。


「そうか、お前ライってえんだな!」
「ああ」
「じゃあライ!俺達の仲間になれ!!」
「ああ………ああ!?」


ちょっと待てよと叫ぶ俺の声も聞こえていないのか、ルフィは上機嫌で眉毛野郎の元へと小躍りで走って行った。あんまりな展開に目を見開いて愕然とする俺。そしてついつい零れた冗談じゃない、の一声は、回りの声と二重三重にも重なって小さな甲板の上に虚しく響いた。


「おいサンジ!仲間が増えたから宴だ!」


ただ一人、船長だけは楽し気に笑顔を振りまいていた。



溜め息が止まらない


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