その目は曇らない



神様ってのは気紛れなだけで、案外悪い奴じゃないのかもしれない。


「スモーカーさああああん!!」
「チッ…いい加減離れろ!ライ!」
「ヤダ!!」
「なら泣き止め!鬱陶しくて敵わねえんだよ!」
「っ、分かった!」


何度も振り返りそうになりながら駆け込んだカジノの奥。ルフィや他の皆とも無事に合流できた。だけどその部屋に雪崩れ込んだのは、何もあいつらだけじゃなかった。

ああ!ありがとうルフィ!今だけあんたに感謝する!


「スモーカーさんスモーカーさんスモーカーさん!」
「こうなるって分かってたけど…なんか釈然としないわね」
「ライは本当にケムリンが好きなんだなー」
「ああ!大好きだ!!」
「ケムリンにはもうつっこまねえのか」


スモーカーさんに引っ付いて、鼻を押し付けて、これでもかってくらい深呼吸を繰り返す。いつも嗅いでいた葉巻の匂い。ああ!この匂いも久しぶり過ぎて涙すら浮かぶ!

正直、今の格好がびらびらなのはあれだが、これをスモーカーさんに見られようと離れる気はしなかった。あとはここが牢の中じゃなけりゃ最高だったんだけどな!


「…ったく、クソガキが」


最初は鬱陶しそうにしていたスモーカーさんもついには諦めてくれたのか、今はただ溜め息と一緒に煙を吐き出すだけ。突き放そうと頭の上に乗せられた手のひらも、いつのまにか撫でるような動きに変わっていた。くすぐったくて、嬉しくて、抱きつく腕の力は自然と強まる。

けど問題は山積みだ。ただの牢なら逃げられないこともないけど、これは海楼石の牢。俺たち能力者は触れることもできない。


「ライ」
「あ、はい。なんすか?」
「今までずっとこいつらといたのか」
「えっ、と、その…」
「火拳はどうした」
「う、あ、あいつは、逃げたって言うか…」
「上着は」
「鞄の、中に…」


次々と重ねられる質問に、俺の言葉尻が霞んでいく。

どうしよう。泣きたい。スモーカーさんすごい怒ってる。そりゃそうだよな…勝手に飛び出して、追いかけてたはずの海賊と一緒にいて、仲間みたいに振る舞ってて…。

まるでスモーカーさんと一緒にいる資格はないって言われてるような気がして、俺は掴んでいた上着から手を離した。


「ちょっと、あんまりライをいじめないでくれる?」
「ナミ…」
「あんたも黒幕を知ったらこいつのことをとやかく言えねえんじゃねえか?」
「海軍を舐めるな。大方の予想はついてる」


ゾロの言葉にスモーカーさんは苛立たしげに答えた。葉巻に火を点けて、すぐそばにいる俺にしか聞こえないような声で問いかける。


「正義は」
「、折れてないっ」


これだけは目を見て、自信を持って言えた。やり方が正しいとか悪いとかは分からないけど、俺なりにできることを考えたつもりだ。その想いはルフィたちも一緒。

まあ、そこまで言ったら言い訳にしか聞こえないだろうから絶対に言わねえけど。




「女連れたぁ良いご身分じゃねえか。ええ?スモーカーくんよ」


海賊はどこまでいっても海賊。

敵を見間違えちゃいけない。力を持った正義は、いつだって悪と背中合わせの存在なんだから。



その目は曇らない


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