砂漠に咲く花



砂丘を登って下りてまた登り。ルフィが変なサギに騙されて貴重な食料、飲料を失うというアクシデントが途中であったものの、さすがと言うべきか。なんとかなっちまうから怖いよなあ、こいつら。とりあえず昼飯はでっかいトカゲで食い繋いだ。

…まあ、それも今となってはどうでも良いことなんだけどな。


「さみぃ」


暑さより空腹より山登りのような道のりより、何より俺は寒さに弱かった。昼間は四十度を軽々と超える灼熱の砂地。それが夜には氷点下まで冷え込むって言うんだから驚きだ。

まさかこの砂の国でまたも極寒体験をする羽目になると思ってなかった分、俺の精神的ダメージはでかい。


「チョッパー、夜は俺から離れんなよ…」
「ははは!なんか口説き文句みてえだな」
「人間ストーブは黙ってろ…」


腹を抱えて笑うエースをじと目で睨み、抱き締めたチョッパーの帽子に顔を埋める。あーあー、メラメラの実の人間ストーブには俺の気持ちなんて分からねえだろうさ。あとチョッパーも。


「チョッパーは良いよなあ、もこもこしたもん着てるから」
「着てるんじゃねえよ!これは毛皮だ!」
「くれ」
「こ、ころす気かっ!?」


と、冗談はこれくらいにしておく。腕の中でもがくチョッパーに逃げられちゃ敵わねえからな(寒いの無理)。









「…んナミすわぁん!ビビちゅわぁん!向こうでこんなもの見つけましたぁ!!」


俺とチョッパー、エースで下らないやり取りをしていたら、不意にでろんでろんに伸びきった声が聞こえた。きっと声の主の鼻の下もでろんでろんに伸びきっていることだろう。

チョッパーは声の主、サンジの言う“こんなもの”が気になるらしく、なんだかうずうずし出した。ほら、耳がぴこぴこ動いてるし。だから俺はチョッパーを抱えて声がした方へと向かった。

向かった先には既に他の面子も揃っていて、皆の中心には不思議な形の砂の塊が。俺はチョッパーを抱えたまま、それを覗き込む。


「…これ、砂だよな?」
「いいえ。砂は表面に付いてるだけで中は透明よ」


まるで花のような形をした砂の塊に首を傾げる。ナミさんとビビちゃんにあげようと思って、とくねくね動くサンジは無視。

ビビもなるだけサンジを視界に収めないようにしながら砂の塊の説明を始めた。


「これは“砂漠の薔薇”と呼ばれていて、砂の塊というよりは水の塊…って言った方が近いかも」
「水ぅ?じゃあ飲めんのかこれ」
「見りゃ分かるでしょ。飲めないわよ」


水と聞いて早速砂の塊…砂漠の薔薇に飛び付いたルフィ。その頭には軽めの拳骨が落とされた。落としたのはもちろんナミな。

呆れたような顔をしていたナミだが、ぐるんと首を回してビビに視点を合わせるとその目がきらりと光った。俺の気のせいじゃなければベリーの字が見える。


「で、中身が透明ってことはもしかして…宝石だったりする?」
「う、うーん…宝石とはまた違う、かしら」
「なんだあ…」


がっくり。音がしそうな勢いで肩を落とすナミにビビは苦笑い。


「砂漠の薔薇はそんなに固い石じゃないから、宝石のように加工することができないの」
「ま、この形じゃ加工する必要もなさそうだけどな」


まるで大輪の薔薇のような形の石。人の手で作ればもっと精巧なものが出来るのかもしれないが、これは“自然に出来たありのままの形”であることに意味がある。その自然の神秘に少なからず感動していた俺達だが、一人の男が感動の空気をぶち壊した。


「へー、本当に中は透明なんだな」
「ゾロ!?」


静かに切られた鯉口、静かに下ろされた刀。砂漠の薔薇はこれまた静かに、真っ二つに割られた。当然、これをナミとビビの為にと思っていたサンジはゾロに突っ掛かる。


「てんめえクソマリモ!お前の頭も真っ二つに蹴り割って欲しいのか!?」
「うるせえなあ。中が透明だっつうから確かめただけだろうが」
「て、め、えのために持ってきたんじゃねえんだよ!!」


この二人が揉めるのはいつものことなので、やっぱり無視の方向で。

ウソップは割られた砂漠の薔薇を拾い上げ、色んな角度からそれを眺めていた。いやー、しっかしこれが人の手で作った物じゃないってんだから驚きだよなー。


「ビビ、なんだって自然の中でこんな形になるんだ?」
「あ、それ俺も気になる」
「あたしも詳しいことは知らないんだけど、砂の中の水分が蒸発する時にある成分が結晶になって…」
「よーするに不思議石だな!」
「「おい」」


せっかく俺とウソップの質問にビビが答えてくれてたのに、ルフィの不思議石の一言で片付けられた。いやー、悪いな俺の弟が、なんて後ろで笑っている奴がいるが、全くもってその通り。あんたの弟どうにかしてくれよ…。



砂漠に咲く花


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