妙なことになってきた



俺がスモーカーさんの名前を出した瞬間、一部の人間を除いて皆の表情が凍り付いた。…あは、こりゃ本当に死んだかもな、俺。


「スモーカーって…あの白猟のか!?」
「危険だ!危険だ!今すぐコイツを船から降ろそう!!」
「ちょっと待って!あいつらもう追い付いて来てるっていうの!?」
「チッ!次から次へと…!!」


俺の一言で、どうやらスモーカーさんが既に追い付いて来ていると勘違いしたらしい皆。一気に戦闘態勢に入る麦藁海賊団に、何やら申し訳ない気持ちになったのは何故だろう…。


「ね、ねえ…もしかしてあなた達、海軍に追われているの?」
「ん?ああ!スモーカーっていうすんげえ強え奴に追われてんだ!」
「そんな暢気に…」


“スモーカーっていうすんげえ強え奴”

その言葉に、俺の口元は自然と吊り上がってしまった。だって、大好きなスモーカーさんのことを強いって言ってるんだ。敵にまではっきりと強いと言わせるスモーカーさんはやっぱり凄いんだ。そりゃ顔もニヤけるって。


「ちょっと!あんた何ニヤニヤしてんのよ!!」
「ま、待って待って!これは違うんだって!」
「じゃあ何だって言うのよ!どうせすぐそこまでお仲間が来てるんでしょ!?」
「来てないです!本当に俺一人だけはぐれてたまたま拾われたんですっ!!」


縛られたままの俺の胸倉を掴み上げ、ぐらぐらと揺するナミという女。だが、俺の言葉を聞くとその手を止め、掴んでいた胸倉を離した。そして、縛られたままだった俺はそのまま甲板に顎を強打した。…すんげえ痛い。


「来てない…?じゃあ、あんたは一体…」
「だから、俺一人だけはぐれたんだよ」
「先兵とかでもなく…?」
「先兵とかでもない。殺したければ今すぐ俺を海へ突き落とせば良いさ。俺はカナヅチだからな」


うつ伏せになっていた体を無理矢理起こし、真っすぐに前を見据える。


「俺の命はお前らに拾われた。今、俺を生かすのも殺すのもお前ら次第だ」


どの道、この命は元々スモーカーさんに拾われたもの。俺のものじゃない。スモーカーさんに恩を返せていないのが気掛かりだが、今の恩はこいつらにある。どうなっても仕方ないだろう。


「…どうする?」
「ううう海に落としてもよ、後味が悪ぃしな…」
「ならボートに乗せて流すか?」
「それも可哀想よ…」
「こういう時は船長の判断に任せようぜ」


そして皆の視線がルフィに集まる。ルフィは腕を組み、うんうん唸りながら何かを思案している。そして突然、何か名案が浮かんだかのような顔で俺を真っすぐに見据えた。


「よし!ならお前!俺達の仲間になれ!!」


予想外過ぎる発言に、俺は言葉を失った。



妙なことになってきた


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