矛の向かう先


(たしぎ side)


麦わらの一味の僅かな手掛かりを見付けた私達はアラバスタへとやって来ました。砂の国と呼ばれるだけあって、とても暑いです…。

…えっと、スモーカー大佐の読み通り、麦わらの一味の姿を確認したのが数十分前のことでした。そしてその姿を見失い、ようやくスモーカー大佐に合流出来たのが数分前のこと。

ぐ、軍曹さん!街の反対に行ってしまったことは黙っておいて下さいって言ったのに…!


「ったく、てめえはいつもそうだな」
「す、すみません…」
「まあいい」


麦わらを追い掛けるスモーカー大佐を見失い、走り回って辿り着いたのは街の反対側。それから慌てて引き返すも、麦わらの一味はすでに逃げた後。

その時の一部始終を見ていた人の話によれば、あの火拳のエースが逃げる手助けをしたんだとか。理由は分かりませんが、白ひげ海賊団の隊長まで関わってくるとなると…厄介ですね。


「大佐、これからどうしますか?」
「…少し、事を整理したい」


先のことを考えて眉間に皺が寄る。同じように大佐の眉間にも皺が寄っていたので(普段よりも、という意味です)、私はてっきり同じことを考えておられるのかと思いました。でも、理由は他にあったみたいです。


「これをどう思う。奴らと一緒に“ビビ”がいたんだ」
「“ビビ”…!?ネフェルタリ・ビビ王女が…!?どうして麦わらの一味と一緒に!?」


繋がりが、分からない。

彼らとの接点も、行動を共にする理由も、分からない。

火拳のエースに、アラバスタ国王女…。どちらもよく知られた名前だけに、彼らとの関係性は気掛かりです。今この国で起きている内乱といい、何かがおかしい。


「それと奴ら、ローグタウンを出てから仲間を増やしたらしい」
「仲間、とは?」
「妙なトナカイが一匹。一緒にいた」
「ト、トナカイですか…?」


それはまた、不思議な仲間が増えましたね…。でもこの砂の国でトナカイは目立ちますし、良い目印になるかもしれません。“妙な”という部分が気にはなりますが。

仲間、仲間…。あ!仲間と言えば、


「ライ少尉は…ご無事なんでしょうか…」


ふと頭の隅を横切った少尉の笑顔。麦わらの一味を一人別行動で追うと言って船を降りたあの人。

私と軍曹さんで必死に止めようとしたのですが、「ちょっと行って帰ってくるだけっすから」と少尉は笑顔で出て行かれてしまいました。

ライ少尉はカナヅチですし、船に積んでいたはずの食料も僅か。何より偉大なる航路をあんな小さな船で渡ることなんて到底無理な話…。

あたしと同じ仮説に至ったのか、隣に佇む軍曹さんの表情が曇る。少尉は強いから、少しくらいのことなら大丈夫だと思うんですけど、やっぱり…無いとも、言い切れない。


だけどただ一人、一番心配していてもおかしくないスモーカー大佐の反応だけが違いました。


「あの馬鹿の心配はするだけ無駄だ。忘れろ」
「へ?で、でも未だ少尉から何の連絡も入っていませんし…」
「そんなもん待つ必要はねえ」


ぎり、と音を立てて噛み潰された葉巻、額に浮かぶ青筋…。溢れる怒気に比例するように吐き出される煙の量も増し、時折舞い上がる砂に紛れて流れて行く。

あまりの怒気に、私も軍曹さんもその場から動けなくなってしまいました。

ど、どうして大佐はこんなに怒っておられるんですか!ライ少尉!私達の手には負えません…!






「麦わら、火拳…。奴らだけは俺が捕まえる」


そう呟かれた大佐の言葉には、今日一番の殺気が込められていました。



矛の向かう先


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