その子とあの子は気づかない


(ナミ side)


ライにお金を貸す代わりに思い付いたこと。それはライに女の子らしい格好をさせること。

顔も体も隠せる所は全部隠して、男のような振る舞いをするライが少しだけ嫌だった。それが取り繕ったものじゃなく、根っこからの振る舞いだって分かってるから余計、ね。

借金の形ってのは建て前よ。面白半分ってのもあるけど、何より女の子らしい格好をして欲しかった。ううん、知って欲しかったって言った方が良いのかも。

あの子が知らないって言うなら、あたしが無理矢理にでも教えてあげようじゃない!





「やっぱ着替えさせてくれよ…。絶対女装にしか見えねえって…」
「そんなことないわよ。どっからどう見たって“女の子”」


顔を真っ赤にして眉を潜めるライ。相当恥ずかしいみたい。背はあたしより高いはずなのに、今はずっと小さく見える。

そんなライをビビと挟むようにして歩き、ゾロ達が隠れている物影に進む。あれやこれやと必死に抵抗するライだけど、いい加減意味ないって気付かないのかしら。

ライの言葉は当然のように右から左へ聞き流し、あたし達の支度が出来るのを待っていた男共に声を掛ける。


「はいはい!こっちの支度は出来たからとっととルフィ探しに行くわよ!」
「はぁいナミすわん!」
「いっそアイツが騒ぎを起こすのでも待った方が早いんじゃねえか?」
「おいおい!それでバロック・ワークスに見付かったらどうすんだよ!?俺は戦えない自信がある!」
「何でも良いけど鼻がもげそうだ…」


ライはあたしの背中に縮こまって隠れたので、皆もすぐには気付かずに普通の会話をしていた。

いつも通りのサンジくんに、不穏な発言(本当にそうなりかねないからやめて欲しい)をするゾロ。それにびびるウソップに、なぜか鼻を押さえたチョッパーの言葉が続く。

そして恐る恐ると言った様子でライが顔を覗かせた。その瞬間、サンジくんの目の色が変わったのをあたしは見逃さなかったわ。


「そこの麗しいお姉さま、お名前をお伺いしても?」


片膝を追って胸に手を当てるサンジくん。もう片方の手でライの手を取ろうとしたけど、それはするりと逃げた。


「キモチワルイ」
「メロリンショック…!!」


あえなく玉砕。まあ当然っちゃあ当然ね。今までサンジくんに女の子扱いされたことなんてなかったんだし。


「どうかそのお名前だけでも…!」


それでも引き下がらないサンジくんは流石と言うかなんと言うか…。普段と180度違う格好に、違う扱い。ライも勝手が分からないらしく、若干サンジくんに押され気味。

いつの間にか捕まえたらしいライの両手を包むように握り締め、その瞳を覗き込む。そこまですれば普通気付きそうなもんなんだけど、サンジくんにそういった素振りはない。

そんなサンジくんに根負けしたのか、ライも二度、三度と視線をさ迷わせた後に口を開いた。


「…ヒ、ヒナよ」
「ヒナさん…!お名前まで麗しいんですね…!!」
「ヒナ憤慨。いや、ヒナ心外…じゃなくてヒナ感げ、き…」

(((どう見たってライでしょ!/だろ!)))


ゾロとウソップもあたしと同じような顔で二人を見た。

もうダメだこの二人!本当に面倒臭い!!



その子とあの子は気づかない


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