タダの代償
「やめろぉぉおぉ!!か、金なら後でちゃんと払うから…!」
「あんたどこにそんなお金があるって言うのよ!今!すぐ!出してごらんなさい!」
「今すぐ!?」
「そうよ!出せないんなら体で払ってもらうから!!」
「ナミさん、その言い方はなんだか怪しいわ…」
物影にてぎゃいぎゃいと謎の攻防を繰り返す俺とナミ。ビビはそれを少し離れた所で男連中が来ないように見張っていた。
押し付けられた物を突っ返し、また押し付けられの繰り返し。
頭に巻いていたカフィーヤは呆気なくナミに剥がれ、リトルガーデンで倒したはずのMr.3がこの国に来ているからという理由で着替えを強要された。
だけど…。
「なんだよこのヒラヒラ!!俺も男連中と同じので良いだろ!?」
ナミに押し付けられたのはどう見ても女物、踊り子の衣装。しかもヒラヒラ…。これは胸元が隠れるデザインになってるみたいだが、それでもへそは出るし足も出るし腕も出る。
今までは帽子を被り、口布付けて長袖にジャケットに革手袋、長ズボンにブーツ…とまあ完全防備が俺のデフォルトだったってのに…。
「…やっぱり無理!!」
「無理じゃない!あんたはあのオカマに顔をコピーされたわけじゃないんだから、Mr.3にさえバレなきゃ良いの!」
「だからって何で…!」
「性別違えば向こうも気付かない!!」
全てはビビのためであり、あんたのためでもあるのよ。…とはナミの言い分。
悪い、ナミ。
全部あたしのために聞こえた…。
結局、必死の抵抗虚しく数分後には借金の形(かた)ということで、踊り子ひらひら衣装に着替えさせられた俺。
はっきり言おう。そこら中スースーして落ち着かねえし、何より似合わねえ。
「あと今スモーカーさんに会ったらたぶん死ぬ…」
「流石軍人ね、筋肉の付き方が違うわ」
「無視するなよ…」
それなりに割れた腹筋を撫で回すナミ。腹筋割れた踊り子って…正直キツいものがあるだろ。
なんか今の俺の格好、男の女装にしか見えない気がするんだが。
「と言うかだな、俺一応ルフィ達の間では“男”で通ってるんだよ」
「元は女の子でしょ」
「…海軍の中でも男で通ってた」
「でも女の子でしょ」
「ライさん、諦めた方が良いわ…」
「あ゙ぁあ゙ぁ…」
ビビの言葉にがっくりと崩れ落ちる。そりゃ俺だってナミが諦めてくれるとは思わなかったけどさ…無理だ。俺が女の格好なんて…無理だ。似合わねえ。
「ほら、あんまりのんびりもしてられないんだから!」
「ぶ、」
踞って抱えた頭の上にぼすり、と何かが被せられた。一瞬、さっきのカフィーヤを返してくれたのかと思ったが、違った。
重力に従って肩を滑り落ちるそれ。渇いた風に掬い上げられ、右に左にと流れたのは光る金糸。つまり、
「…カツ、ラ」
「あんた髪短いから、サンジくんに一緒に買って来てもらったのよ」
「泣きたい…」
ここまで用意周到ってのはどういうことだ。最初っからそのつもりだったってことか。
…でも、たしかに合理的ではある。
Mr.2は右手で触れた者の顔や声、体格までコピー出来てしまう。だけど俺はコピーされていないし、顔を合わせてもいない。つまり、Mr.2の能力で男じゃないとバレる心配はない。
唯一顔を見られたのはリトル・ガーデンで遭遇したMr.3のペアとMr.5のペア。アラバスタにたどり着いたのはMr.3(と、もしかしたらミス・ゴールデンウィーク)だけ。しかも向こうは男の海軍将校だと思ってる、と。
つまり、女の格好しとけばまず向こうは気付かないだろうってことだ。
…今気付いたけど、俺が一生懸命変装したところであんたらと一緒に行動してたら意味ないんじゃねえか?…なんて。言ったところでナミが聞き入れてくれる可能性が0に近いのを俺は知っている。
ああ!こんなことならナミに金なんか借りるんじゃなかった!
「ビビ…タダより高いものは無いって、ホントだったんだな…」
「で、でも!ライさんよく似合ってるわよ!」
「ははは……(フォローになってねえ…)」
タダの代償
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