嫌がらせ?
俺が別行動を取ってまで買いに来たのは帽子と口布。あの船の連中の間では顔を晒すことにも(不本意ながら)慣れてしまったが、やっぱり大勢の人の中では落ち着かない。
とりあえず出店のような形で並ぶ店を見て回る。目につくのは見たことのないものばかりで、鼻につくのは少々強い花の香り。人型だから平気だが、獣型で嗅いだらキツそうな匂いだ。
そうやってキョロキョロと忙しなく目線を動かしていたら、不意に誰かに声を掛けられた。
「おや、海兵さんかい?珍しいね」
そう言って人好きの良さそうな笑みを浮かべたのは店主らしきおばさんで。丁度おばさんのお店には衣類が並んでいるし、と側まで近寄って声を返す。
「この国に海軍が来ることってあんまりねえのか?」
「ああ、大抵のことは国王軍てのが治めてくれるからね。それに、今は七武海のクロコダイルさんもいらっしゃる」
だから海賊が来ても海軍を呼ぶ必要がないって訳さ、とおばさんは笑った。なるほど。
そのまま何でもないような話をしながら商品を物色する。他の店見ても思ったけど、この国じゃ帽子ってのはあんまり扱ってないらしい。
ターバンとかの方が品揃え豊富。ターバン以外だと、布を被ってからそれを紐で押さえる“カフィーヤ”ってのがある。しかもカフィーヤはマスクのように顔を覆うことも可能。
と、いう訳で…。
「じゃあおばさん、そっちのグレイのカフィーヤ一つ」
「毎度!紐の色はどうするかい?」
「んー、じゃあ濃い青が良い」
「はいよー」
そしてさっさと会計を済ませ、おばさんに教わりながらカフィーヤを頭に巻き付ける。顔まで隠したらなぜかもったいないと言われたが、その意味はよく分からなかった。
目的の物は無事に購入することが出来た。じゃあ早いとこ皆に合流するかと首を回したら、運良くサンジの姿を見付けた。聞けばサンジも買い出しから帰る途中だとかで、俺もその横に並んで歩く。
ほどなくして街の終わり、砂漠の入り口に着き、物影に皆の姿を見付けた。
「あら、ライも一緒だったの?…って、何よそれ」
「カフィーヤってんだ」
「そんなこと聞いてんじゃないわよ!何で顔まで隠してんのって聞いてんの!」
「え、あ、ダメなのか…?」
「ダメ!!」
「…ケチ」
これもまたよく分からないが、顔を合わせるなりナミに怒られてしまった。渋々、口元を覆っていた部分だけ引き下げる。…ナミのこれは俺に対する嫌がらせか。
ムスッとした顔でナミを睨んだけど、ナミは素知らぬ顔でサンジに話し掛けている。そして、サンジから“何か”を受けとると満面の笑みでこちらを振り向いた。
背筋をぞくり、としたものが走る。
「ライ?あたし、お金は返さなくて良いって言ったわよね?」
「う、ん。言ったな、たしかに…」
「お金の代わりにこれを着て欲しいの」
「これって………え?」
嫌がらせ?
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