笑顔の裏に



海ネコが現れたのはアラバスタの気候海域に入ったからとかで、あれから程なくして俺達は島に上陸した。

上陸する前には敵組織と相対するにあたり、なんやかんやと説明を受けた。海ネコの前に会った妙なオカマが実はバロック・ワークスの…なんか偉い奴だったってこと。俺とサンジとビビ以外の皆は顔をコピーされてしまったってこと。しかもメモリー機能付きだとかで、これから俺達の中の誰かに化けて出るかもしれないってこと。

…そして、左腕に巻かれた“仲間の印”。




「じゃあ俺は顔を見られたわけでもねえし、やんなくて良いよな、それ」
「ダメだ!これは仲間の印だからライもやるんだ!」
「…丁度良いからもう一回言っとく。俺は仮にも海兵!あんたら海賊と仲間になっちゃまずいんだよ!!」
「うるせえ!ライは仲間にするって決めたんだ!」
「本人の意思を汲め!」
「ゾロも手伝え!船長命令だ!」
「へいへい」
「あっ、てめ、卑怯だぞ…!」





「はあ…」


思い出して溜め息。結局俺の左腕には皆と同じ“印”が付けられている。

俺はいくら言っても聞かないルフィへの当て付けに、と海軍ジャケットを着込んで船を降りた。が、その姿は既になし。理由は誰に聞かずとも分かる。船の中にいても聞こえるくらいでっかい声で“メシ屋”って言ってるのが聞こえたからな…。


「ああ、やっと降りて来た…って、あんたその格好で行くつもり?」
「ルフィへの当て付けだ」
「まあ、海兵と一緒にいれば海賊とは思われないだろうし、良いんじゃねえか?」


俺が船から降りて来るなり怪訝な顔をするナミとは反対に、少しでも危険を回避出来るなら大歓迎だとウソップは笑う。それになぜかチョッパーが驚いた。


「海兵!?ライって海兵だったのか!?」
「ん、言ってなかったか?」
「聞いてねえぞおれ!」
「まあ訳アリなんだよ、俺も」
「おおお、おれ達のこと捕まえるか!?」
「命の恩人にそんな真似はしねえさ」


大袈裟なまでにビビるチョッパーに笑って返す。チョッパーはほっと息を吐くとライも大変なんだな、と俺の顔を見上げた。そう、俺も大変なんだよ。

でもこれは良い機会かもしれない。人の話を全く聞かない船長もいないことだし、ここらで俺と彼らとの線引きをはっきりしておいた方が良い。急に顔を引き締めた俺を見て、ゾロとサンジは何を言わんとしているか分かったらしい。少し目を伏せて難しい顔をしていた。




「…この一件が片付いたら、俺は船を降りる」


ゾロとサンジの表情は変わらない。でも、他の四人は少なからず驚いたようで、僅かに瞳の色が揺らいだ。


「随分、急ね…」
「前から決めてはいたんだ。言うのが遅くなってゴメン」
「ルフィじゃねえけどよ、このまま船に残る気はねえのか?前に言ってたじゃねえか。“背中の正義に誇りはない”って」
「うん。だけどスモーカーさんにも恩があるから」
「戻るにしても、何か咎められたりしないかしら…」
「お咎めは免れないだろうな。だけど場合が場合だし、言い訳は考えてある」
「おれ、まだライに会ったばっかりなのに…」
「…うん。そうだよな…」


ナミが、ウソップが、ビビが、チョッパーが…口々に言う。それらに出来る限り明るく返していったけど、最後には苦笑いするので精一杯になってしまった。そんな空気を振り払うように、今まで黙っていたゾロとサンジが口を開く。


「何にしろ、今はまだ海軍に戻らねえんだろ?」
「ビビちゃんの国を救うのが先だ。しんみりしてるヒマなんてねえぞ」
「はは、それもそうだ」


そう、まださよならじゃない。それより先にやるべきことがある。おおっぴらに仲間だとは言えねえけど、俺も彼らと同じ目的を持っているつもりだ。七武海とやり合うには、それ相応の覚悟がねえと。


「とにかく俺達もメシを食おう。考えるのは全部その後だ」
「悪い、俺だけちょっと別行動で頼む」
「あ゙あ?」
「あとナミ、金貸してもらっても良いか?後で必ず返すから」
「別に良いけど…何に使うのよ」
「内緒」


俺も腹は減ったけど、メシより先に調達しておきたいものがある。特に人の多い街に入るってんなら、俺にとっては必要不可欠な物。…それに、ナミと一緒だと買わせてもらえなさそうな気がするので、ぜひとも別行動で買いに行きたかったのだ。


「利子は三倍でよろしく」
「高っ!」


お金を小さな袋に分けて入れてもらい、それを受け取った途端にこれだ。そんなに高価な物を買うわけじゃないにしろ、利子三倍はちょっと…。と、俺は渋り顔で袋の中身を確認する。これだけあれば足りるかな。

そしてその時、ナミが悪い顔をして笑った。だけど俺が顔を上げた時にはとても爽やかな笑みを浮かべていたので、俺はナミが何か企んでいることに気付けなかった。


「やっぱりお金は良いわ」
「へ?良いのか?」

「ナミが狂った…!!」
「ちょっと待て!俺の時は使わなかったのに利子付けろって言ってたじゃねえか…!!」
「あんたらは静かになさい!!」
「「いだっ!!」」


ナミの言葉に思わず聞き返せば、なぜか外野の方が騒がしくなった。いつものようにウソップとゾロの上にナミの鉄拳が落ちたわけだが…俺には理由が分からない。


「とにかく、お金は返さなくて良いからさっさと買い物済ませてきちゃいなさい」
「お、おう。よく分かんねえけどありがとな、ナミ」
「ライさん、待ち合わせ場所は決めなくて平気?」
「大丈夫。騒がしい所に行けばルフィがいるんだろ?そこに行くさ」
「じゃあライは後で合流ね。あんまり遅くならないように」
「分かってる。じゃ、また後で!」




…そして、後に俺はタダより高い物はない、と後悔する羽目になる。



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