やむを得ない
「じゃあ、あたしの質問に嘘偽りなく答えてちょうだい。もし一度でも怪しい素振りを見せたりしたらすぐに海へ帰してあげるわ」
「イェッサー」
(…ナミの奴、いつになく警戒し過ぎじゃないか?)
(そりゃあの訳の分からねえ女が来た後じゃな。誰だって警戒するだろうさ)
「そこ!うるさいわよ!!」
ああもう、なんだろこの不運っぷりは。一人で出てきたせいで遭難して、助かったと思ったら海賊船で、しかもそれが俺達が追っかけてた麦藁の一味だなんて…。おまけに今は縛り上げられて尋問中。オレンジの髪のお姉さんは妙にピリピリしてるし、眉毛野郎はずっと俺に殺気を飛ばしてきてるし、緑髪の男もそれとなく警戒してるし…。唯一友好的なのは船長のルフィくらいなもんだ(それはそれでおかしいが)
「ほら、余所見してんじゃないわよ!はいまず一つめ!現在武器は所持しているか!!」
「イェス」
「サンジくん!没収して!!」
「はーいナミさん!今すぐに!」
ナミと呼ばれた女性の一声で飛んで来た眉毛野郎。とりあえず一旦ロープを解かれて、変にいじくり回される前にと俺は自ら袖の中に隠していた武器を差し出した。動物の爪を象ったようなそれを見たルフィと長鼻の男は、カッコいいだなんだと騒いでいる。俺はあまりいじるなよとだけ言って、再びオレンジの髪の女性へと向き直した。横では再び手際良く、眉毛野郎が俺の事を縛り直していた。
「じゃあ次。あんた何で海で漂ってたのよ。しかもあんなちっぽけな船で」
どう考えたって怪しいじゃない、と付け足して、女は俺の顔を覗き込む。顔をまじまじと見られるのは苦手なので(睨み付けられるのは平気)、俺はついと視線を逸らした。それを不信に思ったらしい彼女は、更に俺の顔を覗き込んできた。
「…あら、あんたもしかして…」
「あ、よせ…!」
そして次の瞬間、俺の口元を覆っていたスカーフが彼女の手によって剥ぎ取られてしまった。俺は慌てて俯いたのだが、目敏い彼女がそれを許してくれるはずもなく、顎に手を掛けられて無理矢理に彼女の方を向かされた。まだ目深に被った帽子が残ってはいるが、これだけ近くで見られてはそれも意味を成さないだろう。
「なるほどね、分かったわ。じゃあ二つ目の質問に答えてもらおうかしら?」
「え?」
「ほら、海に落とされたいの?」
「あ、ああ、分かった…。俺は一人であんたら麦藁海賊団を追って来たんだ。…遭難したけど」
「一人で?」
「いや、正確に言うと途中から」
「じゃあ途中までは誰と追ってきてたの?」
何故彼女があの事を言及してこなかったのかは分からないが、それに恩を感じた俺は一瞬躊躇いはしたものの、正直に答えることにした。
「ローグタウンよりスモーカー大佐と、だ」
やむを得ない
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