冬桜



「おーい、あんたら皆元気かー?」
「ライさん!もう起きて大丈夫なの?」
「ん?ビビ達がなんでここに?」


いつの間にか暗くなった空の下、すっかり勢揃いした麦わら海賊団の面々に首を傾げる(でもルフィとウソップが見当たらねえな)。

聞けば、ワポルを倒すためにロープウェイを使って登って来たんだとか。それにまた首を傾げると、すかさずナミが「あんたが寝てる間にひと騒ぎあったのよ」と俺の額を小突いた。そりゃ面目ねえ。


「それはそうと、三人は体の方、大丈夫なのか?」
「あたしは熱も下がったし、もう平気よ。ルフィもピンピンしてる。サンジくんはまあ…寝てるだけよ」


心配かけてごめんね。

そう言ってナミは少し高い俺の頭の上に手を置き、いつかしてくれたみたいにゆっくりと撫でてくれた。それに俺はだらしなく笑って、皆が元気になって良かったと返す。

だけど雪の上に横たわるサンジはどう見ても気を失っていた。ドクターがピンピンしてるっつってたのは嘘だったのか?


「そう言うてめえはどうなんだよ」
「俺か?俺はドクターに薬盛られたから元気元気!」
「なんかおかしいわよそれ!」


ゾロの質問に笑顔で返すと、ビビの手の甲がズバッと俺の腹に入った。まあ、所謂ツッコミだ。

それに苦笑いを溢してビビの方へ向き直す。


「ドクターに睡眠薬だかなんか盛られたみたいでな、さっきまでぐっすり寝てたんだよ」


でも俺、なんやかんやで睡眠とってた気がすんだけどなあと頭を掻いたら、ビビが今までは寝が浅かったんじゃないかしら?と返してきた。ああ、なるほど。それもあり得るか。


そうやって他愛のない話を繰り返し、ナミの言う“ひと騒ぎ”の説明を受けた。ちなみにルフィとウソップは山を降りるため、ロープウェイの準備中だそうだ。

そして、ドクターに別れを告げに行ったらしいチョッパーを待つ。

夜空は雪を落とし、月は優しく笑う。来た時とは違い、風も穏やかだ。…ただ、城の方は逆に賑やかだけど。いや、賑やかというよりこれは…。


「悲鳴?」


ぎゃーだのわーだの叫び声が木霊する。続いて何かが雪を蹴散らしながら駆けて来る音が響き、城の中から一頭のトナカイが現れた。


「みんなそりに乗って!!山を下りるぞ!!」
「チョッパー!?何をそんな慌てて…」

「待ちなぁ!!」

「「「んな」」」
「「「何ぃぃぃっ!!?」」」


びゅんびゅん、と空を切る音と一緒に包丁が飛んでくる。チョッパーの後ろには般若の形相のドクターがいた。何がどうなってこうなったのか全く分からん。

とにかく俺達は、飛んでくる包丁を必死に避けながらチョッパーが引くそりに飛び乗った。


「チョッパー!人数多いけど大丈夫か!?」
「これくらい平気さ!」
「ははは!頼もしいな!」


チョッパーはこちらを振り向かずに、力強い声でそう答えた。俺はそれがなんだか嬉しくて声に出して笑った。

後から飛び乗るナミやビビ、ウソップに手を貸す。ゾロは一人でも大丈夫だったが、身動きの取れないらしいサンジは皆で担ぎ込んだ。乗り遅れたルフィは俺の手を掴んでそりの外。

大きく笑う満月を横目に、俺達は空を飛んだ。


そして、船が停めてある入り江へと向かう。その途中、今までいた山の頂上から何発もの砲撃音が響き、俺達はそりから降りてそちらを見詰めた。

チョッパーは空を仰いで叫ぶように泣く。





「…綺麗だ」


チョッパーの旅立ちを祝ったのは、見たこともないくらい大きな、満開の桜だった。



冬桜


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