意地はある
ルフィ達が出発した後、俺達はそのまま外であいつらの帰りを待っていた。一緒に行けない分、少しでもその大変さを分かりたいから。ドルトンさんもそれに付き合うと言って朗らかに笑った。あったかい人だ。
そんなドルトンさんが不意に、難しい顔をして呟いた。
「…昔はね、ちゃんといたんだよ」
「いたって、何、が?」
「医者さ…理由あって全員いなくなってしまったんだ」
そこから始まったこの国の話。なんでも、この国は数ヶ月前に一度滅びているんだとか。…ああ、だからまだこの島に名前はないなんて言ってたのか。しかもその相手が海賊だったとなれば、最初の警戒っぷりも納得出来る。よく俺達を入れてくれたもんだ。
ドルトンさんの話はそこで終わらず、かつてのこの国の王の話にまで及んだ。聞いてビックリ。ここへ来る途中で襲ってきたあのカバみてえな奴がその王だって言うんだからな。国を捨ててまで保身を計ったと聞いて、不本意だがあのカバみてえな奴のことを思い浮かべた。…たしかに、己さえ良ければ全て良し、みたいな奴だったように思う。
俺はなんとなく気になって、隣で話を聞いていたビビをちらりと見た。同じ国を背負う者としてか、ワポルがした事に対して酷く憤慨している。
俺はそういう立場の人間じゃねえから偉そうなことは言えない。でも、分かることだってある。
「国ってのは、でっけえよ、なあ…」
なんたって、沢山の命の集まりなんだから。きっと想像も及ばないくらいでっかくて、重たいもんなんだろうな。
俺はほとんど独り言のようにそう呟いた。だけどドルトンさんはその言葉をしっかり聞いてくれていて、きちんと声を返してくれる。
「たしかに国とは大きなものだ。だが、そこに人がいる限り幾度滅びようともまた立ち直せる」
「時間は、掛かるだろ、な」
「ああ、でもやるしかないさ。この島に新しく、平和な国を築くために」
ずっと険しい顔をして話していたドルトンさんが、ようやく笑った。俺も釣られて笑いそうになる。が、顔が冷たくて上手く表情筋が動かせねえ。どうにもぎこちない笑顔になってしまった気がする。
そんな俺を見かねてか、今度は少しばかり眉尻を下げたドルトンさんが立ち上がった。
「…君だけでも家の中に入った方が良いんじゃないか?」
「俺だけ、そんなカッコ悪い真似、できねえ、よ」
「ライ、お前このままじゃあいつらが戻ってくる前に風邪引くぞ」
「む、」
「そうよ!船でも倒れたばっかりじゃない!」
「ぬ、」
ドルトンさんの言葉に乗っかって、ウソップとビビまでもが詰め寄ってきた。いや、だから女の子のビビが外で待ってんのに俺だけ家ん中入ったらカッコ悪いだろって(俺も男じゃねえけどさ)。
だけどいくら言っても三人は引き下がらない。
唇は青い、顔も青い、舌は回らない、握力もない、おまけに前科あり。
前科ってのは職業的にちょっと引っ掛かる言い方だったが、心配しての言葉だったので嬉しかった。…けど!それとこれとはまた別だ!
「分かった。要は、体、あったかくすれ、ば、良いん、だろ?」
「まあ、そうだけどよ…」
「ひとっ走り、してく、る」
「んな!?」
ウソップが素っ頓狂な声を上げた。ビビは逃がすまいと腕を伸ばす。ドルトンさんは驚いたような顔。
俺はすぐに獣型へと姿を変えて、出来る限りの速度で走り出した。ウソップとビビが後ろで待てだのなんだの言ってるが、それは聞こえない振り。
「待ちなさい!慣れない雪道で帰れなくなるぞ!」
「俺なら、大丈夫!」
鼻が利くから、と叫んで今度こそ立ち止まらずに走った。
あーあ、帰ったらきっと怒られるよなあ…。
意地はある
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