雪山ランデブー



ドルトンさんの家でこの島の医者について聞かされた。

今この島には医者が一人しかいなくて、その人は魔女と呼ばれていて、ドラムロッキーとかいう煙の出ない煙突みたいな山の頂上に住んでいて、だけど通信手段がなくて、140近い変わり者のばあさんで、梅干しが好きらしい。

俺は梅干しは酸っぱいから苦手だ。蜂蜜漬けなら好きだけど。


「…で、お前はその山を登るのか」
「ああ!早くナミを医者に診せてやりてえしな!」
「ナミを背負って?」
「おう!」


力強く頷くルフィに溜め息が零れる。

さっきまで外で遊んでたルフィとウソップだが、作った雪像をサンジに蹴り壊されたのを切っ掛けに家の中へ入って来た。はじめは大人しく茶を飲んでいたはずなのに、ドルトンさんの話を聞くなりルフィは山を登ると言い出す。当然、皆は止めに掛かった。でも当の本人は言い出したら聞かねえし、何よりナミまでよろしく、なんて言うんだ。もう諦めるしかねえだろ、これは。


「よし、俺も行く!!」


そうなれば周りもそれに乗っかるしかなくなるのが必然で。サンジもあの山を登ると言い出した。ルフィだけじゃ心配だもんな、病人の扱いとか全く分かってねえし(水ぶっかけようって言い出した時は本気でどうしようかと思った)。逆に、常識人組のビビとウソップは却って足を引っ張ってしまうという理由から居残り組に決定。まあ、ここは化け物組に任せとけば大丈夫だろう。


「サンジ。マフラー」
「ん?ああ、悪ぃな」


善は急げ。早速外に出て出発の準備をするサンジに、先程借りたマフラーを返す。ホントはまだ寒いから返したくなかったが、これから極寒の地の断崖絶壁を登ろうって奴から取り上げるほど鬼じゃねえさ。だからちゃんと返した。

ビビが、背負われたナミが落ちないようにとルフィに紐で固定している。それを俺はウソップの隣に並んで眺めた。


「ライ、お前も行くのか?」
「いや、俺も残る。たぶん付いてっても、足手纏いに、なるだけだから、な」
「なんでだよ、お前強えんだろ?」


そう言って首を傾げるウソップ。俺は自分の言ったことが嘘ではないことを証明する為にウソップの手をぐ、と握った。


「寒さで、全然、手に力が入んねえん、だよ」
「は!?これが全力!?」
「おう。全力、だ」


多分、握力だけなら子供にも負ける。あと口もまた回んなくなってきた。ウソップが信じられんとか言いながら俺の手を握ったり離したりを繰り返す。俺はそれに嘘じゃねえよと全力で握り返した。でもやっぱり貧弱なものでしかない。…ああ、前にローグタウンに雪が降った時もたしぎさんと似たようなことしたなあ。懐かしい。

そんな風にちょとしんみりしていたら、いつの間にか二人の出発の準備が整っていた。斜め上に流れていた視線を戻し、二人を見遣る。その表情に気負いだとか不安みたいなもんは全くなくて、まあどうせ行って帰ってくるだけだ、みたいな顔をしている。あのほぼ垂直にそびえ立つ山を見てなんでそんな顔が出来るのか問い詰めてやりたい。

平然としている二人に不安を覚えたのはどうやらドルトンさんも同じだったらしい。この島に住む人として二人に進言してくれた。


「本気なら…止めるつもりはないが、せめて反対側の山から登ると良い」
「ん?でもそれだと遠回りになんねえか?」
「ここからのコースには“ラパーン”という凶暴な兎がいるんだ」
「うさ、ぎ?」
「そうだ。集団に出くわしたら命はないぞ!」


至って真面目な顔で言ったドルトンさんには悪いが、兎を警戒しろと言われても正直ピンと来ない。だって兎だろ?白くてもこもこで可愛い兎。…あ、でも肉食って聞いたらちょっと危ねえなって気はしてきた。でも兎…。

ルフィ達も兎という単語に首を傾げる。だけど結局はサンジの“蹴る”という一言でその問題は片付けられてしまった。

そして、ルフィがナミが死ぬ前にとか縁起でもないことを言いながら走り出す。おいルフィ、本気で縁起でもねえからそういうことは言うんじゃねえ。


「…本当に大丈夫かね」
「俺も、同じこと、思、た」
「まあ…あの二人は心配ねえが」
「ナミさんの体力がついていけるかどうか…」


なんか今になってすげえ不安になってきた。人選間違えたかもしんねえと思ったのは、たぶん俺だけじゃないはずだ。



雪山ランデブー


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