冬島上陸



海軍ジャケットではいい加減寒さを凌げなくなってきたので、一番サイズの近いウソップの上着を(勝手に)拝借した。そのままゾロと一緒に甲板に出れば、やっぱりウソップに上着のことを突っ込まれた。わりぃ、借りた。と悪びれもなく言ったらチョップが返ってきた。まあ、このくらいはご愛嬌ってやつだな。


「それで?誰が行く。医者探し。いや…まず人探しか」
「俺が行く!!」
「俺もだ!!」
「よーし行って来い!」
「じゃあ俺も行くからウソップ、船番よろしくな」
「な!?ライも行くのか!?つまりおおお俺一人で船に残れと!?」


狼狽えるウソップにそう言うことになるな、と頷けば面白いくらいに慌て始めた。ホント、ウソップは見てて飽きねえな。そんでサンジと一緒になって海には巨大なイカがいるだとかタコがいるだとか言ってウソップを脅かして遊ぶ。普段はあんだけキャプテーンウソップ!とか言ってるだけに面白いんだなー、これが。だけどいい加減やり過ぎな気がしてきたのでお仕舞いにしようと思ったら、不意に誰かの声が響いた。


「そこまでだ。海賊ども」


入り江に入った船を囲むように沢山の人が並ぶ。武装した彼らに俺達が医者を探しに来ただけであることを告げても、島に立ち入ることを拒まれた。いくら海賊だからって、ここまで頑なに拒むもんか?首を傾げて彼らを見上げてみても、当然心意は分からない。

そうこうしている間に、一発の銃弾がサンジの足下へと放たれた。威嚇のつもりで撃たれたであろうそれにキレたサンジは、やり返そうと身を乗り出す。それを止めたのはビビだった。

だけどまた、銃声が響く。

倒れたのはビビだ。それを見た皆が殺気立つ中、何故か俺は一歩も動けなかった。…情けねえ。ルフィもゾロもウソップもサンジも、銃を構える彼らを見据えたっていうのに、俺はビビから目を逸らせずにいた。なんだろな、こう…ビリビリと肌が痺れるみたいな感覚がしたんだ。


「戦えば良いってもんじゃないわ!!」


今にも船を飛び出そうとするルフィを押さえて、ビビは叫んだ。


「上陸はしませんから…!!医師を呼んで頂けませんか!?仲間が重病で苦しんでます、助けて下さい!!」


躊躇いもなく頭を下げるビビの横で、ルフィもそれを真似るように頭を下げた。ビビが小声でルフィをたしなめるのが聞こえたけど、ルフィは嫌な顔一つせずその言葉を聞き入れていた。もちろんビビも凄いけど、それを素直に受け止めるルフィも凄いと俺は思った。自然と吊り上がった口元は、首に巻いたマフラーを引き上げてこっそり隠す。

そして、暫く張り詰めたような沈黙が続いた。


「村へ…案内しよう」


そう言って沈黙を破ったのは…リーダー、かなんかっぽい人。周りの人達が非難の声を上げないのを見るからに、っていう曖昧な判断だけど。

その人について来るようにと言われてビビが笑った。一方、ルフィはかなり感心したような目でビビを見ている。

そりゃー人の上に立つ経験値で言ったらビビの方がずーっと上だしな。俺でさえちょっとばかし鳥肌が立ったくらいだ。今回はビビの王女としての片鱗を見た気がするな。うん、うん。


「おーい、ライ!ボーッとしてると置いてくぞー?」
「は?…って、ウソップお前船に残るんじゃなかったのか?」
「俺も行くことにした!」
「ああ、そう…。じゃあ誰が船番で残るんだ?」
「ゾロが残るとさ。カルーも一緒だ」
「ふーん」


まあ、誰が残ろうと構わねえけど、と鼻を鳴らせばお前は相変わらずだな、とウソップに呆れられた。何が相変わらずなんだ?と聞けば、興味のないことにはとことん興味がねえ、とのこと。ああ、言われてみればたしかにそうだ。人に言われないと案外気付かねえもんだな。

ウソップとはそんな他愛のない会話を交わし、俺はナミを負ぶって出てきたサンジに続いて船を降りた。踏み締めた雪はやっぱり冷たくて、ブーツ越しでも足の感覚が奪われていくのが分かった。

…やっぱり、寒いのは苦手だ。



冬島上陸


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