眠る子猫



夜、皆ナミの看病をしながらそのまま女部屋で寝ていた。今日の不寝の番はサンジ。あいつ以外のこの船のクルーは全員女部屋に居た。昼間ちょっと問題を起こした俺も一緒。体自体はもう、なんともねえからな。


(だからと言って、眠れる訳じゃねえけど)


床にごろごろと転がる男連中を見てくすりと笑う。この船の皆は好きだ。だけど好きと慣れはまた違う。毎日スモーカーさんの近くで眠っていた俺は、未だこの船での睡眠に慣れずにいた。昼寝をしようにも、この寒さじゃ寝れねえしなあ…。

皆を起こさない程度にはあ、と小さく溜め息を吐く。


「…あんた、まだ眠れないの?」
「!」


不意に響いた声にばっと顔を上げる。驚いたようにそちらを見れば、ベッドから顔を出したナミが小さく笑っていた。


「ホームシックってヤツかしら?」
「…どちらかと言うとスモーカーさん欠乏症」
「ふふ、そんな感じね」


俺の言葉に呆れるでもなく、優しく笑うナミ。そんなナミに釣られるように俺も苦笑いを零した。ナミは黙って俺の顔を見ていたが、しばらくしてちょいちょい、と手招きをして俺を呼ぶ。それに首を傾げつつ、床に転がる皆を踏まないように注意しながらナミの元へと向かう。


「ナミ?」


近くまで来たところで声に出して疑問を口にする。というか、俺なんかよりナミの方が寝てないといけないんじゃねえのか?…やっぱり寝てろよ、と口に出し掛けたところで、何かが頭の上にぼふんと置かれた。一瞬、何が起きたのか分からなくて言葉が途切れる。


「ライは随分、スモーカー大佐に甘やかされてたみたいね」
「ゔ」


旋毛の辺りから前髪までを、ゆっくりと撫でられる。俺の頭の上に乗せられたのはナミの細い手だった。高熱のせいで高くなったその体温が、この寒さには気持ち良くて眼を細める。


「ライの髪ってすごい猫っ毛。ふわふわしてる」
「ナミの髪は、つやつやだよな」
「ありがと。でも褒めたって何にも出ないからね?」
「ん。知ってる」


ゆっくり、ゆっくり。子供をあやすように動く手の平。スモーカーさんのごつごつした手とは違う、別の温かさ。こういうのは、初めてだ。


「…ゴメンね。これくらいのことしかしてあげられなくて」
「いいや、十分過ぎるよ」


ナミのベッドに突っ伏すようにして眠るビビの横、並ぶようにナミに頭を差し出し、顔を伏せる。

ここの皆は優しいな。スモーカーさんとはまた全然違った居心地の良さがある。


「ナミ」
「ん?」
「…俺、拾われたのがこの船で良かった」
「そう?」
「うん。皆、すっげえ優しい」
「あはは、そんなこと言うのはきっとあんたくらいよ」


じゃあきっと、皆素直じゃねえんだよ。

俺がそう呟けば、ナミはまた笑った。続けて、もう寝なさいと柔らかく言うナミの声は、なぜかぼんやりとしか聞き取れなかった。



眠る子猫


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