二択



男部屋にあったありったけの毛布を被せられて、ぼんやりとされるがままになっていた。その内、ゾロは皆の元へと行ってしまった。段々と意識がはっきりしてきたところでようやく事の経緯を思い出す。…防寒具といえばマフラーだけ、という格好で見張り台で寝ちまったんだっけか。そら死にかけもするわ、と溜め息が零れる。


「…ライ!お前大丈夫か!?」


ばん、と甲板へ続く扉が開かれて降りて来たのはウソップ。続いてサンジとビビも降りて来た。皆、心配したような顔をしていてなんだか申し訳なくなる。ただでさえナミのことでてんてこ舞いだったのに…。柄にもなくしゅん、と項垂れてしまった。


「おら、簡単に作ったもんで悪いが飲め。温まるぞ」
「…ありがとう」


そう言ってサンジに渡されたスープを受け取り、ゆっくりと口を付ける。一口、二口飲み込んだところで、ほっと一息吐いて皆に頭を下げた。


「こんな時に迷惑掛けてゴメン」
「そんな、誰も迷惑だなんて思ってないわよ」


だってライさんはもう、仲間じゃない。

ビビは優しく笑った。俺はビビのその言葉に、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。ああ、ダメだって。そんなことを、言われたら…。


「……っ」
「ライ!?」
「おいおい、泣いてんのか?」
「も、もしかしてあたし何か言っちゃったのかしら!?」


ぽろぽろ零れる涙を隠すように、毛布に顔を埋めた。歯を食い縛って涙を堪えるけど…ダメだ、タイミングが悪すぎる。

見張り台に上がった時、自分に言い聞かせたじゃないか。俺は海兵、彼らは海賊。一生相容れるはずのないもの。だから、俺は彼らの仲間にはなれない。

なのにそんなこと言われたら…。


「戻りたくなくなるじゃねえか…」


ぶわっ、と涙が溢れる。口に出したら途端に止まらなくなった。柄にもなくというか年甲斐もなくびーびー泣く。皆がすごく困っているらしいのがぼやけた視界に映ったけど、それでも涙は止まらない。

躊躇いがちにビビの腕が俺の背中に回されて、すがり付くようにして泣いた。

戻らなきゃいけない。
けど、戻りたくない。

こういう選択を迫られたのは初めてで、自分でもどうしたら良いのか分からなくなってしまった。丸投げして誰かに選んでもらいたかったけど、なんとなく、自分で決めなきゃいけないってことだけは分かった。

出すべき答えは、選ぶまでもないはずなのにな。



二択


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