危険な昼寝


(ゾロ side)


「くあっ…あぁ…良く寝た」


欠伸を溢しながら伸びをする。霞む眼を擦れば、辺りがもう薄暗くなり始めているのに気付いた。甲板には誰も居ねえ。大方、女部屋でナミの看病でもしてんだろうな。俺も行くかと立ち上がったところで、掛けていた毛布がぱさりと落ちた。ああ、そういやあ見張り台からそのまま持って来ちまったんだっけな。落ちた毛布を拾い上げ、改めて女部屋へ向かおうとしたら、ラウンジからウソップが顔を出した。


「ライー?どこに居んだー?…あ、ゾロおめえ今頃起きたのかよ」
「、るせえなあ。別に俺の勝手だろうが」
「まあ別に良いけどよ。それよりライの奴知らねえか?さっきから呼んでんのに返事がねえんだ」
「ああ?」


そんなの今の今まで寝てた俺が知る訳ねえだろが。そう返せば、ウソップはそれもそうだと諦めたように船内に戻って行った。だがまだライを探すこと自体は諦めてねえようだ。その証拠に、ライを呼び続ける声が聞こえる。別にどこ居たって良いじゃねえか。そう思いかけたところで、最後にあいつを見た時のことを思い出す。




「俺はもう少しここに居るー!」




…いや、まさかな。いい加減降りただろ。エロコックが言うにはあいつは寒さが苦手みてえだし、あれから結構時間が経ってんだし…。さすがにまだ見張り台に居るってことはねえだろ。

そうは思うのだが、ウソップが探していたこと、返事がねえってこと、あいつが眠いって騒いでたこと、俺の手に…見張り用の毛布が握られてるってことが僅かながら焦りを生む。


「…チッ、なんで俺がこんなことしなきゃなんねえんだ」


乱雑に毛布を畳んで脇に抱え、足早に見張り台へと昇る。まさか居る訳ねえとは思うが万が一ってこともある。…いや、もし居たら文句の一つでも言ってやりてえな。なんだって俺がこんな面倒なことを…。


「…本当に居やがった」


見張り台の中を覗き込めば、器用に小さく丸まって寝るライの姿があった。よくもまあこんな場所で寝られるな、と呆れ半分で声を掛ける(人のこと言えねえだと?余計なお世話だっ!)。


「おら、いい加減起きろ。こんなとこで寝てんじゃねえよ」


だが、反応がない。本当に世話の焼ける奴だと思って体を揺すってみるが、それでも起きない。さすがにおかしいと思った俺は、ライの頬を軽く叩いてみた。それでも反応がない。


「…っ、おい!しっかりしろ!」


慌ててライの体を起こしてその顔色を伺えば、普段は血色の良い肌からは血の気が失せていた。唇も真っ青で触れた肌は馬鹿みたいに冷てえ。口元に耳を寄せれば微かに聞こえる呼吸音。まだ死んではいねえな。


「ったく、世話の掛かるガキだ…!!」


持っていた毛布をライの体に巻き付け、そのまま肩に担いで甲板へと飛び降りる。ナミの部屋はもう寝かせられる場所がねえから、とりあえず男部屋だ。降りた甲板から更に男部屋へと降り、部屋にあるソファにライを寝かせる。ありったけの毛布を被せてもう一度、ライの頬を叩いた。


「起きろクソガキ!いつまでも寝てんじゃねえ!」
「…ん、あ…?」


ようやく眼を開けたものの、それは酷く虚ろで焦点の定まらないものだった。だがまたその眼を閉じようとするもんだから、俺は寝ないようにとライの両頬を思いっきり引っ張ってやった。


「寝るんじゃねえって言ってんだよ…」
「いひゃ、い…い、ひゃ…」


俺が頬を引っ張ってんのもあるが、それ以前に唇も舌もほとんど回ってねえ。ま、こんだけ冷えてりゃ無理もねえか。


「ゾ、ロ…?」
「目は覚めたかよ」
「あ、ああ…覚めた、けど…」
「ならそこで大人しくしてろ。今ウソップ達に話してくる」
「?」


ライは状況が掴めないらしく、毛布にくるまったまま首を傾げている。ったく、めでてえ奴だな。


「下手したら死んでたぞ。お前」
「げ。マジか、よ」


ほとんど回らない口でそう言って、いつものように顔を顰めるライ。

あーあー。ホンットに世話の掛かる奴だなお前は。



危険な昼寝


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