船長のワガママ


(サンジ side)


運動後の一服をしながら、見張り台を見上げる。ライはさっき体を引っ込めたっきり、顔を出す気配はない。


「アイツがどうかしたのか?」
「…いや、あんだけ寒い寒い言ってた奴がなんで見張り台なんてクソ寒ぃ所に居んのかと思ってよ」
「ただの気まぐれだろ」
「そんなもんかね」


マリモはああ言うが、俺はそうは思わねえ。…いや、マリモも口ではああ言ってるが顔はどこか納得がいかねえって顔してやがる。

見張り台からチラッと見えたライの顔は、どことなく違和感があった。何でかっつったら、たぶんあいつが笑ってたからだ。ライはこの船に乗ってから数えるほどしかまともに笑ってねえ。良くてニヤリ顔で、気が付けば溜め息か文句ばっかり言ってる。敵船に乗せてもらってるっつーのに図々しい奴だ。


「おーいサンジぃー。動いたら腹減ったぞーう」
「…ったく、てめえは一体一日に何食食えば気が済むんだよ」
「腹が減ったら何回でも食うぞ俺は!」
「答えになってねえ!」


船長と下らないやり取りをしつつ、仕方なくキッチンへと足を向ける。後ろではビーフ、ポーク、チキンと一人で楽しそうに騒いでいる。全部肉じゃねえかと溜め息混じりにツッコミつつ、冷蔵庫を開ける。…こりゃ、あと数日も持たねえぞ。船長に掛かる食費の異常さに思わず頭が痛くなる。ああ…!こんな時にナミすわぁんの笑顔が見れたらなぁ…!!俺、頑張れちゃうのに!!

…だが、ナミさんの容態が良くなる気配はない。もちろん、俺だって出来る限りのことはしてるさ。でもやっぱりコックに出来ることにも限界がある。ましてや原因不明の高熱とくれば、そんじょそこらの医師が下手に手出しできるようなもんでもねえだろう。…そんなもん、俺なんかにどうにかできる訳がねえ。

また溜め息を溢しながら、傷みかけの食材を取り出す。ルフィなんぞに食わせるにはこれで十分だ。


「メーシ!メーシ!メーシ!」
「分かったからてめえは大人しく待ってろ!!」

「どーぼ、ずびばぜんでじだ」


ちょっと黙らせてやんねえとすぐ騒ぎ出すからな、こいつは。手荒なくらいが丁度良いんだよ。

口はつぐんだが、相変わらずフォークやナイフをかちゃ鳴らし続けるルフィ。まあこれくらいは我慢できねえとこの船ではやってけねえさ。俺はルフィに背を向けたまま、料理を続けた。だけどあとは仕上げだけって時になって、なぜかルフィは食器を鳴らすのを止めた。普段ならここが一番煩くなり始める頃なのに、と不振に思った俺は、鍋を火から下ろしてルフィの方を振り返った。


「どうしたルフィ。やけに静かじゃねえか」
「…あいつ、この船降りんのかな」


真っ直ぐに前を向いたまま、たまに見せるあの真剣な顔でルフィは俺に問い掛けた。俺は一瞬考え込んでから、また鍋の方へ向き直り盛り付けを始める。

あいつが降りるか降りないかの二択でいったら…。


「降りるだろうな」


おら、出来たぞ、とルフィの前に料理を出せば、いつもの調子であっと言う間に平らげちまった。ったく、いつも思うがこいつの胃袋は一体どうなってんだ。それより何よりさっきの深刻な顔はどこ行ったんだよ。


「サンジ!俺はライが降りるって言っても許さねえからな!」
「許さねえって…あいつはあくまで海兵だぞ?つーかそれを俺に言うな」
「知るかそんなもん!俺が仲間にするっつったら仲間にするんだ!」
「ライの意見は無視かよ…」


まあ、こいつの我が儘は今に始まったことじゃねえし、それに振り回されるのも初めてじゃねえ。

こりゃ、どっちが先に折れるかの根比べだな。



船長のワガママ


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