俺は海兵、彼らは海賊



船を食われたことに怒ったルフィが、敵さん連中の一人を殴ったのをきっかけにわーわーと戦闘が始まった。なんだ、手を出しても良かったのかと至極楽しそうな顔で剣技や足技を繰り出す戦闘員二人。ウソップは何やらキッチンを預かるサンジの天敵のような動きで逃げ回っている。当然、俺にも剣や銃が向けられはしているのだが、面倒臭いので避けるだけにしている。


「お、おいライ!お前も戦え!戦える者は戦うべきだ!」
「寒いから体動かねえんだよ」
「嘘吐けー!!」


相変わらずカサカサと逃げながらも俺に戦えと叫ぶウソップ。その間も敵の攻撃をのらりくらりと躱してはいるのだが、いつもより大分動きが鈍いように感じる。ホットミルクの温もりが抜け切らない内に動いたので、歯が鳴らない程度には温かい。だけど寒いのに変わりはない。なんかもっとずっと暖かいままでいられるもんねえのかなー。


「…あ、良いもんめっけ」
「何!?」
「それ、くれよ」


剣を振り回す敵の頭上を越えるように体を捻って跳ぶ。その際にすっと手を伸ばしてお目当ての物を掴み、着地と同時に身に付ける。


「うお、めっちゃあったけえ!」


敵さんから奪ったのは耳まできちんと覆われるもこもこの帽子。予想以上の温かさに俺の顔も綻んだ。

あー…もう俺、これで満足。あとは見張り台にでも登って見物してよ。まさに“高みの見物”!


「あ、おいこら!てめえどこ行く気だ!」
「見張り台」
「行くならこいつら片付けてから行け!」
「こいつらの相手すんのが面倒だから行くんだよ。それとも何だ?手でも貸して欲しいのかよ」
「「必要ねえ!!」」


息ぴったりに返事を返す二人に思わず苦笑。ま、仲が良ければ息が合うってもんでもねえし、なんだかんだお互いのことを分かってるこの二人らしいっちゃらしい。ま、俺としてはあしらえさえすれば何でも良いのだが。








そんな訳で、カバに食われたルフィを尻目に見張り台へと登る。無事、上に着いた頃にはカバ野郎も水平線の彼方へと飛んで行き、あの変な船もそれを追うように慌てて走り出した。これにて一件落着ってやつだ。


「ライー!あいつら帰ったから降りて来いよー!」
「俺はもう少しここに居るー!」


甲板と見張り台とでは声が届きにくい為、ルフィも俺も自然と間延びした話し方になる。ルフィの横ではサンジが首を傾げていたけど、これ以上何か突っ込まれる前にと彼らからは見えない位置へ身を引っ込めた。





「…スモーカーさん、俺…海兵失格かもしんないっす…」


膝の間に頭を埋めるように縮こまる。スモーカーさんとお揃いのジャケットを握り締めて、胸の内のモヤモヤを必死に抑え込む。

ここ最近、考えないようにしてた。気付いてない振りをしてた。…だけど、もう誤魔化しが効かないところまできてしまった。向き合わなきゃいけない。俺が海兵で、彼らが海賊である以上は。


「これ以上、あいつらと馴れ合う訳にはいかねえ…」


でなきゃ、スモーカーさんに会わせる顔がないんだ。仲良くなる訳には、いかないんだ。

そうやって自分に暗示を掛けるように、繰り返し呟いた。



俺は海兵、彼らは海賊


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