寒い眠い面倒くさい



さて、この偉大なる航路という場所は常識が全く通用しない場所として有名だ。それは時に嵐を呼び、災いを呼び、訪れた船乗り達をたちまち海底へと沈めてしまう。

空が晴れのち大雪、時々嵐ならば、海も時化のち凪、時々潜水艇なんてのもきっとザラなんだろう。


「…にしても、変わった船だ」


突然、船が大きく揺れ出したもんだから、俺はナミをサンジ達に任せて甲板へと飛び出した。すぐに目に飛び込んできたのは妙な球体が開いて船へと姿を変えるところ。そして、そのマストで揺らめくのは黒を背負った髑髏…ジョリーロジャーだった。


「ののの暢気なこと言ってんなよー!?」
「じゃあ慌てた方が良いか?」
「いや、その必要はねえな」


どうせ雑魚だ。ビビるウソップを尻目にゾロはそう言ってにやりと口角を上げた。だが次々とこちらの船に乗り移ってくる男達に船長が手を出す気配はない。穏便に済ます気なのかね、なんて考えていたら慌てたサンジが甲板へと出てきた。


「…で、どうしたんだこの状況は」
「さあ?」
「さあ、ってなお前…」


銃は突き付けられちゃいるがまだ発砲はされてない。つまり俺からすればまだ襲われてないって状況。あ、ホットミルク飲んだ後だからなんか眠くなってきた。

ひょい、と手摺に飛び乗って腰掛け、ふわあと欠伸を溢す。ウソップがなんかギャーギャー喚いてるけど俺の知ったこっちゃねえ。

あーあー。せっかくホットミルクで温まったって言うのにまた体が冷えてきたじゃねえか。借りたマフラーに首を引っ込めてみるが、やっぱり寒いものは寒い。


「なあ、俺船ん中戻っても良いか?寒いし眠いんだけど」
「アホか貴様!!」
「あ?なんで敵のお前に言われなきゃなんねえんだよ」
「敵だから言うのだ!そこから一歩でも動いたら撃つぞ!」
「チッ」


面倒臭え。どうにも船内に戻れそうにないので、俺は不貞腐れるように膝の上で頬杖をついた。なんだってこんなカバみてえな奴に邪魔されなきゃなんねえんだ。あー寒ぃ。


「それにしても、たった5人しかいねえのか?この船は」
「…ワ、ワポル様…!」
「まあ良い…とりあえず聞こう…ってなんだ貴様、そんなに慌てて」
「あの男の背中を見て下さい…!!」
「背中ぁ?」


ワポルと呼ばれたカバみてえな奴はバリバリと音を立てながら短剣を口の中へと放り込んだ。船も変なら乗ってる奴も変だな、曲芸か?なんて見ていたら、なぜか取り巻きの一人が俺を指差して声を上げる。ワポルもそれに反応して俺の背中を見ると顔色を変えた。

…ああ、そっか。海軍ジャケットのことか。


「貴様!海軍か!?なんで海賊船なんぞに乗っている!?」
「別に好きで乗ってる訳じゃねえよ」


顔を顰めてひらひらと手を振りながら答えれば、ワポルは益々怪訝な顔をした。大方、海兵が海賊とつるんでるなんて裏があるとでも思ったんだろうが、そりゃあ考えすぎってもんだ。

…にしても、やっぱりこのジャケットは悪目立ちするな。この船に乗ってる間だけでも別の上着を借りるか。


「ふん、まあ海軍なんぞがどう動こうが俺様の知ったことじゃねえ。…ところでお前ら“ドラム王国”への永久指針、もしくは記録指針を持っていないか?」
「持ってねえし…そういう国の名を聞いたこともねえ」
「ほら、用済んだら帰れお前ら」


ワポルの質問に対し、サンジは簡潔に答えた。やはり仲間でもない海賊がぞろぞろと自分の船に乗っているのは気に入らないらしく、ルフィは不機嫌そうな顔をしている。

この船長ににそういう真意があってのことかは分からないが、とりあえず戦闘にはならずに話がつきそうなので俺は適当な掛け声をかけて腰を持ち上げた。

すると、あろうことかワポルとかいうカバ野郎はルフィの船を食べ始めたではないか。


「なんだあいつぁあ!!?」


やっぱり、戦闘は避けられない運命らしい。

面倒臭えー!!



寒い眠い面倒くさい


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