ホットミルクを淹れましょう



「う、うぅ…さむ、寒い…」
「うるっせえんだよクソガキ。これくらい我慢しろ!」
「ムリ、ムリ…俺、寒いのダメ…」


ナミの病気を治してからアラバスタへ向かうという、この船の“最高速度”を取ったは良い。が、あれから一日が過ぎた今、どうにも冬島の近くの海域に入ってしまったらしく船の外では雪が降っていた。ナミは高熱でうなされ汗をかいているのだが、俺は逆に歯をがちがちと鳴らしながら震えていた。

ゾロは見張り台に立っているから別として、ルフィとウソップは雪が降っていると気付くなり嬉しそうに甲板に飛び出して行った。一言で言うなら“信じらんねえ”だ。ウソップはまあ毛布を羽織って出て行った(それでも理解に苦しむ)が、ルフィは普段の格好のまま出て行った。


「…寒っ!!」


想像しただけで震えがくる。さっきより悪化した震えと悪寒に思わず涙ぐむ。チ、チーターはあったかい所に住んでるもんなんだよ!こんな寒さ耐えらんねえ!!

今までずっと包まっていた毛布をそのまま羽織り、すっくと立ち上がる。ナミのことは心配だし、ずっと側についてたいのは山々だがこのままでは俺まで熱を出しかねない。


「サン、ジ…キッチン借りるぞ…」
「あ?料理でもすんのか?」
「ホットミルク…作ってくる…。ビ、ビビもいるか?」
「う、うん。お願いするわ」


ホットミルクくらいならナミも飲めるかな。まあ、飲めなかったら俺が飲めば良いし、一応作るか。


「よし、ちょっと…待ってろ…」
「ああ待て待て!そういうことなら俺が作る!!」
「わ、悪ぃ…火にも当たりてえんだ…」
「チッ。重症だなあ、おめえは」
「うる、せえ…」


情けねえとでも言いたげな顔で俺を見るサンジに、残念ながら俺は口を尖らせることしかできなかった。だって図星だから。お、俺だって好きでこんな寒がりになった訳じゃねえんだかんな!


「クソぉ…暑い所だったら平気なのに、よ…」
「へーへー。そら良かったな」








ラウンジに着き、サンジはすぐにキッチンに立ってホットミルクを作り始めた。冷蔵庫からミルクを取り出し、鍋の中へ注ぐ。その鍋を火にかけて、ゆっくりと温める。

俺は火加減を見るサンジの横に立って、ほんのりと熱を放つ鍋に手を翳した。


「サ、サンジは平気なのかよ…」
「あ?何がだ」
「寒いの」
「ああ、俺は北の海(ノースブルー)出身だからな。お前よりは慣れてる。ま、育ちは東の海(イーストブルー)だが」


サンジのその答えに、俺は別段興味が湧かなくて、ふーんと適当に返した。それに対してサンジはホンットに可愛げのねえ奴だなって言ってきやがったから、俺は男に可愛げなんて必要ねえだろって返しておいた。サンジの答えは“違えねえ”だ。

それから少しして、湯気の上がり始めた鍋を火から下ろし、マグカップへと注いでいく。用意されたマグカップは5つ。多いと言って良いのか足りないと言った方が良いのか…。


「…誰と誰の分?」
「まずビビちゃん、それにナミさん」


一つ、二つと温かいミルクを注いで鼻息を荒くするサンジ。ま、だろーなと呆れ半分で俺はその光景を眺めた。


「それにライ、てめえの分」


3つ目のマグカップに注がれたのはどうやら俺の分らしい。


「あとは俺とビビちゃんの鳥の分だ」
「カルーな。つーかサンジも飲むのか?」
「ったりめえだ。俺だって寒ぃんだよ」


そう言いながら手際良くお盆の上にマグカップを移していくサンジ。女部屋に行くには一度船の外に出なくてはいけないのだが、ルフィとウソップは雪にはしゃぎっぱなしでこちらに気付かなかった。メインマストの上で見張りをしていたゾロも、下に居た俺達には気付かなかった。

そのまま何食わぬ顔で女部屋へ続く倉庫へと入っていくサンジに、俺は首を傾げる。で、そのまま疑問に思ったことを口にした。


「ルフィ達の分は良いのか?」
「あいつらには必要ねえよ」
「なんで」
「ルフィもウソップも外で遊んでるから、体は十分あったまってんだろ」

「そういうもんか?」
「そういうもんだ」


雪に降られてる以上、体を動かしていようがいまいが少しくらい冷えると思うんだがな。とりあえず俺だったら寒い。


「あ、じゃあゾロは?」


ルフィとウソップの分がない理由は分かった。だけどゾロはどうだ。あいつはこの船で恐らく一番寒い見張り台に居る。寒くないわけがないだろう。

だけど、サンジは俺の問いに対して、何故か笑いを堪えるように喉を鳴らした。


「くくっ。あのクソマリモがミルク飲むっつうんなら、俺は喜んで用意してやるよ。そんなクソ面白えもん滅多に見れねえからな」


んで、死ぬほど笑ってやる。

そう続けてニヤリと口の端を持ち上げるサンジに、俺はお前らホント仲悪いのな、とだけ返しておいた。

まあ、確かにゾロにミルクってのも随分不釣り合いな組み合わせだが、そんな死ぬほど笑うようなもんでもねえだろ。…と思うのは俺だけだろうか?


「…後で酒でも持ってってやるかな」
「その酒はどこから調達する気だ?」
「う、」


サンジの地獄耳。俺もちょっと飲みたかったのにな。こりゃ諦めるしかなさそうだ。



ホットミルクを淹れましょう


(22/55)


topboxCC