猫の寝ている間に
(ナミ side)
「ナミすわぁん!ビビちゅわぁん!朝食のご用意が出来ました〜!!」
「あー、分かったからもうちょっと静かにして。中で寝てるライが起きちゃうわ」
「い、今なんと…?」
「だから、ライが起きるって言ったのよ。あの子ったら、変に神経張っちゃっててさっきようやく寝付いたところなんだから」
「ライさん、やっぱりまだこの船に慣れないみたいね」
だから自然に起きるまでそっとしておいてあげて、と続けるビビに、サンジくんは何も言わなかった。…いや、何も言えなかったって方が正しいわね。
あんぐりと口を開けて眉間に皺を寄せて、酷く驚いた顔のまま固まってる。別にこのまま放っておいても面白いんだけど、それじゃあいつまで経っても朝食にありつけそうにないじゃない?だから、女部屋の前で固まったままのサンジくんを引き摺ってラウンジへと向かった。とにかく話は後よ、後。
「おい、ライの奴知らねえか?」
ラウンジに入るなり、顰めっ面のゾロが開口一番にライの名前を口にした。あら、意外ね。ゾロはライのこと警戒してるみたいだったのに。そう思ってどういう風の吹き回し?なんて問い詰めたら、せっかく人が客用のハンモックを出してやったのに結局来なかったから気になっただけだ、ですってー。ふふ、素直じゃないわね。そもそもアンタがハンモックを出してやること自体、珍しいんじゃない?
まあ、とにかく今は朝食が先よ。昨日はいろいろ話し込んだせいでお腹が空いたわ。
ライにビビのこと、バロック・ワークスのこと、これからするべきことを説明して、あわよくば海兵から見た王下七武海のことだとか海軍に動きはないだとか聞こうと思ったんだけど…。仮にも将校なんだしちょっとくらい情報持ってるかと思ったら、てんでダメ!!そういう難しい話は全部スモーカーさん任せだったし七武海は鷹の目くらいしか会ったことがないし興味ないですって!?ふざけんじゃないわよ!こっちは何の為に危険犯してまで海兵を乗っけてると思ってんのかしら!
「あーもう腹立つ!お腹空いた!サンジくん朝御飯!!」
「…は!は〜いナミすわぁん!すぐにご用意します!」
正気に返ったサンジくんは相変わらずの手際の良さで次々に料理を並べていく。ホント、普段のあれさえなければ良いコックさんなんだけどね。
「と、ところでナミさん…さっきの話なんだが…」
「ああ、ライのこと?」
「ライがほうかしたのはー?」
「ルフィには関係ないわ」
「おう!ほうか!ほれにははんへーなひか!」
「うん。だから口の中のものをこっちに…飛ばすな!!」
「ぶべっ!!」
ホンット、この船の連中ときたら話一つするのにもこんだけ時間が掛かるんだから大変よ。分かる?あたしの苦労。まともな神経してたらやってらんないわよ、こんな船。
「はあ…。あー…ライのことだっけ?昨日の夜いろいろ話し込んで結構な時間になっちゃったから、そのままあたし達の部屋で寝るように言ったのよ。なんか文句ある?」
「ありまくりです!!なんで野郎なんか部屋に入れてあまつそのまま寝かせたのぉ!?…やっぱりあの野郎今すぐぶっ飛ばす!!」
「だから寝かせとけって言ったでしょ!!」
今にも女部屋に殴り込みに行きそうなサンジくんを、“つい”グーで殴って止めちゃった。やーね、あたしったら。“つい”手が出ちゃったわ。
そして本当にほんの少しの間だけどラウンジが静かになった。だけどそう思ったのもやっぱり一瞬で、次の瞬間にはウソップがやけに真面目な顔をしながら口を開いた。
「…でもよ、あいつこれからどうするんだろうな。次の島で海軍に戻るとか…」
「何ぃ!?ライは俺の仲間だぞ!?海軍なんかに渡すもんか!」
「バカだなルフィ、ライは元々海軍だぞ?この船に乗ってんのだってきっと仕方なくだ。なら次の島でこの船を降りるって考えるのが妥当じゃねえか」
「あいつ海軍なのか!?」
「「「「「最初に言ってただろ(でしょ)!!」」」」」
船長のあまりのおバカっぷりに溜め息が出ちゃう。ああもう嫌だ、本当に頭痛くなってきた…。なんだか体もダルいし、疲れが溜まってるのかしらね?…ま、この船じゃ仕方ないか。
とりあえずライのことは保留よ、保留。本人に直接聞くまでなんとも言えないわ。
…あたし個人の意見としては、降りて欲しくないんだけど、ね。
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