笑えない冗談だ
いや、しかし驚いた。ミホークさんに真っ正面から斬られて生きてる奴がいるなんてな。
「なあゾロ。ミホークさんに斬られたのっていつだ?」
「“ミホークさん”って…お前、鷹の目の知り合いか?」
「まあそんなとこ。で、斬られたのは?」
「うるせえ!斬られた斬られたって何回も言うんじゃねえ!!」
くわっと顔を般若みたいに歪めて怒鳴るゾロ。なんだよ、斬られたのは事実なんだから仕方ないじゃんか。まあ、ゾロのプライド的には仕方ないで済ませらんねえ話なんだろうが。
「…奴に会ったのは偉大なる航路に入る前だ」
「割と最近か?」
「まあ、そうなるな」
俺が最後に会ったのはもう数年前。あの時、ミホークさんは海軍本部にいた。だけどゾロの話を聞く限りだと、今はまた海に出てるみたいだな。
「じゃあさ、俺と同じか少し下くらいの女の子が一緒にいなかったか?」
「いや、いなかったはずだぞ」
そんなこと聞いてどうすんだよ、とまた悪人面で顔を顰めるゾロに、とりあえず俺はいなかったんなら良いんだ、とだけ返しておいた。
…おかしいな。数年前に会った時の様子じゃあ、ミホークさんがあの子を放って海に出そうには見えなかったんだが。ま、時間は人を変えるって言うし、本人達に直接会ってみなきゃ分かんねえか。
そう自分の中で区切りをつけて、うーんと背伸びをする。せっかくゾロがハンモックを出してくれたんだし、今日はお言葉に甘えて中で寝させてもらうとするかな。昨日は甲板で寝たせいで体を痛めたから。
「ああ、ライ、こんな所に居たのね」
「ん?ナミ?俺になんか用か?」
「ええ、ちょっと話しておきたいことと聞きたいことがあるのよ。後であたしの部屋まで来てくれるかしら?」
「了解。すぐ行くよ」
船内から扉を開けて出てきたナミ。ゾロは俺とナミのやり取りを見て首を傾げていた。理由を聞いてみたら、ナミは普段、女部屋と男部屋をきっちり分けていてクルーですら男は部屋に入れないらしい。ああ、たしかにそんな感じがする。
「ライは男として見られてねえみてえだな」
「…ははは」
笑えねえ。その冗談、俺は笑えねえんだよゾロ。
ナミに男として見られていないのは当然なのだが、ゾロにまで男として見られないのは困る。何故かって?…なんでだろ。今さら後に退けねえって感じか?
…よく分かんねえや。
笑えない冗談だ
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