うーん、敵わない



「おい野郎共!恐竜肉でメシ作ったからさっさと来やがれ!」
「うおー!メシだあぁ!!」


船内から扉を開けて、エプロンをつけたサンジが声を上げる。その声を聞いたルフィは真っ先に部屋へと飛び込んだ。そんなルフィにサンジはまだ食うんじゃねえぞと釘を刺し、ナミとビビをエスコートしながら部屋へと消える。ゾロは気だるそうに欠伸を溢しながら、ウソップは嬉しそうにスキップしながらその後に続いた。

俺もそろそろ腹が減ってきたし、サンジの料理はいつも美味いから楽しみだ。そんな風に暢気に考えていたら、何故か扉の前にサンジが立ちはだかっていた。


「おいサンジ。中に入れねえじゃねえか」


訝しむように顔を顰め、サンジを睨む。俺はチーターの姿なので必然的に見上げる形になるったのだが、サンジはすぐに俺と目線を合わせるように体を屈めた。そして、はじめに会った時のように俺に煙草を突き付けて、こう言った。


「悪いが、うちはペット禁制なんだ。後で皿にミルク入れて持ってきてやるから、それまでここで待ってるんだな」
「はあ!?」


そして最後にニヤリと笑い、してやったりとでも言いたげな顔で煙草を吹かした。一瞬呆けてしまったが、我に返って飛び掛かろうと両前足を上げる。この野郎ふざけやがって!


「…って!おい離せ馬鹿!持ち上げんな猫じゃねえんだぞっ!!」
「おーおー軽い軽い。お前本当にちゃんと飯食ってんのか?」
「食ってるっ!食ってるから下ろせっ!!」


俺が持ち上げた前足の下に手を入れられ、そのまますっくと立ち上がったサンジに抱えられる。宙ぶらりんになった後ろ足をばたつかせて必死に抵抗してみるが、あまり効き目はないようだ。


「おら、飯が食いたいんだったらちゃんと元の格好に戻れ」
「なんでだよ!このままでも良いだろ!?」
「ナミさんのご要望だ!!」
「〜〜っ!」


ナミめ!事情知っててそう来るか!こんなの嫌がらせ以外の何物でもねえじゃねえか!くそっ!


「分かったよ!戻りゃあ良いんだろ戻りゃあよ!!」
「あ、てめえいきなり戻んな!びっくりすんじゃねえか!!」
「うるせー!!いい加減下ろせぐるぐる眉毛!!」
「あんだとこのクソネコ!!このまま海に放り込むぞ!!」
「あんたらいつまで待たせるつもりなの!!」


ごいん、と鈍い音が脳天に響き、そこで俺とサンジの言い合いは強制終了された。その拍子に俺を抱えていたサンジの手がぱっと離され、ようやく俺の足が床につく。あー…それにしてもきっつい拳骨だ…。


「ったく、いつまで経っても入ってこないしやけに騒がしいから何かと思えば…遊んでんじゃないわよ!」
「んん〜!怒ったナミさんも一段と素敵だ〜!!」
「…はいはい、分かったからサンジくんはちょっと黙ってて」
「は〜いナミすわぁん!!」


アホかコイツ。

怒られてんのに目をハートにして喜ぶ目の前の男を訝しみながら溜め息を吐く。あ、よく見たらたんこぶがハート型じゃねえか。…ますます意味が分からん。


「…やっぱり、ちゃんと顔が見えてた方が良いわね」
「は?」
「アンタ、せっかく綺麗な顔してんだから、隠してたら勿体ないわよ?髪だってこんなにふわふわなんだし」
「べ、別に俺は綺麗なんかじゃ…」
「まあ、たしかに女顔ではあるがな」
「あんだとコノヤロー!!」
「やめんか!!」


そして二発目の拳骨が落とされる。痛い痛いと悶絶する俺と、相変わらず目をハートにしているサンジ。なんて対照的なんだ。…絶対に俺の方が正しい反応だと思うけど。

まあ、そんな俺の心境を知ってか知らずか、ナミは早く中に入れとサンジの背中を押す。俺も頭を擦りながら中に入ろうとしたら、ナミが俺にしか聞こえないような声で小さく囁いた。


「大丈夫よ。アイツら皆、単純馬鹿だから気付きやしないわ」


だからアンタは堂々としてれば良いの。そう言って強く背中を押すナミに、思わず目が点になる俺。

彼女には色んな意味で敵わない、と思わされた瞬間だった。



うーん、敵わない


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