考えるのは面倒臭い



雄叫びを上げながら走る二人と一匹。その後ろから少し離れて追う俺。鼻を使って追わなくとも、前を走るアイツらの雄叫びがあるから目標を失うことがない。なので、今は元の人型に戻って走っている。

…と、また拓けた場所に出るな。恐らく敵が居るであろうその場所を前にして、俺は一旦スピードを落とした。だが、目の前の二人と一匹は勢いを落とすことなく突っ込んで行った。


「「「おりゃああぁぁぁあ!!」」」


雄叫びもそのままに飛び出し、見慣れぬ顔の前を通過して行く。その際、お前らぶっ飛ばしてやると叫んでいたから、アイツらが敵らしい。

そして俺は、森に突っ込んで行ったルフィ達に気を取られたままの“敵”から離れ、巨大なケーキの形をした蝋燭?に飛び乗り、身動きが取れなくなっているナミ、ゾロ、ビビの三人に話し掛けた。


「…また珍妙な状況だな、おい」
「ライさんも来てくれたのね!?」
「来たっていうか何て言うか…」
「理由なんかなんでも良いからもうそいつらホントにもう原型なくなるくらいボッコボコにしてどっか遠くへぶっ飛ばしちゃって!!あと早くこれどうにかして!!」
「お、おう…」


どうやらナミのお怒りは相当なものらしい。まあ、ぶっ飛ばしてやりたいのは山々なんだが、如何せん。状況がさっぱり、だ。なんだって三人がこのデカイケーキみたいな蝋燭に刺さってるんだ?それにあの横たわってる巨人は?


「な、な、な…」
「な?」
「何で海軍がこんな所に居るんだガネ!?」


そう言って酷く驚き、青ざめた顔をする変な(3の)頭の男。若干、煩いと顔を顰めつつ、仕方なくそちらを見遣る。3の男の横に居た5と書かれたコートを着た男と、レモン色の帽子の女も同じように驚いている。


「まさかもう海軍に嗅ぎ付けられたんじゃ…!」
「おいおい、そんなことボスに報告できっこねえだろ!?」
「だが、海軍将校まで出てくる事態になっているとは…」
「「「「海軍将校!?」」」」


今度は何故か、味方側が驚く番。ますますややこしい状況になっている気がして、俺は口布の下で溜め息を吐いた。


「…たしかに俺は海軍将校だけど、なんか問題でも?」
「大有りよ!あんたそんなことひとっ言も言ってなかったじゃない!!」
「言わなくたって見りゃ分かるだろ!この背中の“正義”の二文字!!これを背負えんのは将校だけって決まってんの!!」


親指でぐっと背中を指差し、ナミ達にも見えるように背中を向ける。相当、我が儘を言って作ってもらったこのジャケットは、スモーカーさんとお揃いの物だ(すっげー怒られたけど)。俺のちょーお気に入り。


「ふん…。だが、今ここで始末を付けられると考えれば良い。ライと言ったかネ?階級は?」
「少尉。将校ん中じゃ一番下だな」


ならば話は早い、と高笑いする3の男。そして、コートの男にMr.5、あの男は君に任せようと言って、奴は戻ってきたルフィと対峙した。Mr.5と呼ばれた男は俺に向き直りうんざりしたような顔をした。


「…ったく、何だってこうも次々と邪魔が入りやがるんだ」
「それはこっちの台詞。お陰で俺は現状が何一つ把握出来ちゃいないんだから」


そして生意気なガキだ、と言っていきり立つMr.5。えーと、たしかこういう時は“テメエの頭で考えろ”ってスモーカーさんが言ってたっけな。ふむ。

…俺の頭じゃいっくら考えても分かりそうにねえや。


「おいガキ!余所見してる余裕なんてねえぞ!!」


大きな蝋燭に立ったまま、腕組みをして柄にもなく考え込んだりしてみていたら、Mr.5のそんな声が聞こえて意識がそちらに引っ張られた。そして次の瞬間には爆発音。耳をつんざくような音に、顔面の焼けるような痛み、鼻を突く火薬の臭い。ああ、やってくれるじゃねえか。

横で三人が俺の名前を叫ぶのが聞こえた。だから俺は返事をする代わりに、焼け落ちた口布を取り払いながら笑ってみせた。これくらい、別に平気だぜってな(まあさすがに痛いけど)



考えるのは面倒臭い


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