俺の鼻は獣並ってこと
「なんなんだこの島。色んな臭いがしやがる」
口布を顎の下まで下ろし、すんすんと鼻を鳴らしながら森を駆ける。先程のルフィの雄叫びで異変を感じ取った俺は、五感をフル活動させて辺りの様子を探っていた。
…島に着いたばかりの時にはしなかった臭いが、風に乗って微かに流れてきていている。だが如何せん。この格好のままでは嗅ぎ分けられない臭いも多いし、元の位置も掴めない。
「しゃーねえ。能力に頼るのはあんまし好きじゃねえが…」
そうも言っていられない状況みたいだしな。
それだけぼそりと呟いて、森を駆ける足は止めることなくその姿を変えていく。アイツら、ビックリしてくれっかな?
「キャハハハハ!さすがの3千万の賞金首も、あれじゃあねえ」
「フフ…ウイスキーピークでの礼が出来て嬉しいぜ」
レモン色の帽子を被った女が高笑いを上げ、5と書かれたコートをまとう男が不敵に笑う。女はビビの両腕を後ろ手に組ませてその自由を奪っている。ウソップは地に埋まり、カルーは傷だらけで横たわり、船長のルフィも巨大な“骨”の下敷きにされ、身体の自由が利かない状態にあった。
「ゾロを捕まえた?じゃ、お前ら斬られるぞ」
「ほぉ…。まだ、口が利けたか。俺の“足爆(キッキーボム)”を顔面に受けといて…」
「べっ!お前らしねっ!」
「呆れた」
「………」
だが、ルフィはそんな状態でも尚、男に言葉を返すことを忘れなかった。男はルフィと数回言葉を交わした後、怒りからルフィの顔を何度も蹴り上げた。
それと同じ回数だけ爆発音が辺りに鳴り響き、ビビの悲痛な声も掻き消されてしまった。
そして、歯向かう者が居なくなったことに満足したらしい男と女は、ビビを連れてその場を立ち去った。
「なんだ!?今の爆発音は…!」
俺は己の鼻を頼りに、森の中を駆けていた。流れてくる不可解な臭いは“蝋”と“火薬”の二種類。はじめは“蝋”の臭いに向かって走っていた俺だが、先程数回に渡り聞こえた爆発音に思わず足を止めた。
また、すんすんと鼻を鳴らして火薬の臭いの元を辿ると、微かに血の臭いがした。俺は舌打ちをして、血の臭いに向かって全速力で駆け出す。
俺の鼻じゃどこに誰が居るだとかまでは分からないが、血の臭いがするってことは少なくとも、誰かが怪我をしたってことだ。それがあの船のメンバーなのか、それともこの島の住民なのか、はたまたそれ以外の生き物かは分からない。だが何にしても、こんな辺鄙な島で“火薬”がそんなにあるとは思えねえ。
…物騒な奴らが、紛れ込んでるみてえだな。
俺の鼻は獣並ってこと
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