少しだけ、話してみようか



「……ふあぁ…。よく寝た」


翌朝、何やら騒がしい甲板で俺は目を覚ました。まだ警戒されているようなので自分から甲板で寝ると言ったは良いものの、やはり体のあちこちが痛む。ごきごきと首や肩を鳴らし、未だぼやける視界で皆を捉えた。


「あ!やっと起きたわね!?あんたからもコイツに何か言ってやってよ!!」
「は?」


まず最初に目の合ったナミにそう言われ、彼女が指差す先を見ればキラキラと笑うルフィがいた。


「ライ!お前も冒険に行くか!?」
「冒険?」


なぜ冒険?と思ったが、周りを見渡して納得。船はいつの間にかジャングルの中の川に停まっていた。なるほど、これは確かに冒険の匂いがするな。


「んー。でも冒険は良いや」
「そうか!じゃあ俺はビビとカルーと冒険に行ってくる!!」
「おおよそで戻って来るから!」
「おう、気を付けてな」


元気良く船を降りる二人と一匹にひらひらと手を振り、俺は欠伸を一つ噛み殺した。うーん、起きたばっかりで体がダルいな。若干動きの鈍い肩をぐるぐると回し、腕がいつもより軽いことに気付く。そうだ、“爪”をまだ返してもらってないんだった。

そして爪を返してもらおうとナミに声を掛けたところで、何故かゾロとサンジの二人も船を降りていることに気が付く。しかも何やら言い争いをしている。いったいどうしたのかと残ったナミとウソップに聞けば“肉何kg狩れたか勝負”の為にジャングルへ向かったのだと言う。ふむ、勝負事か。


「そういえばさっきあたしのこと呼んだわよね?何か用でもあったの?」
「ああ!俺の“爪”を返してくんねえか?俺、あれしか武器らしいもん持ってねえんだ」
「んー…そうね、こんなジャングルじゃいつ襲われるか分かったもんじゃないし」


ちょっと待ってて、今取ってくるから。と言い残し、ナミは船室へと消えた。残された俺とウソップは、自然とお互いを見た。


「…なあ、お前よ、海軍のくせに良いのか?その…」
「プライドとか、立場のことか?」
「…ああ」


言いにくそうに言葉を零すウソップ。思えば、彼とまともに言葉を交わすのはこれが初めてだった。


「確かに俺にも誇りはある。だが、それはこの背中の“正義”に誓ったもんじゃねえ」
「………」
「ぶっちゃけ言うとな、海軍であることに誇りはねえんだ。…立場はまあ、あれだけど」


可笑しな話だろ?そう続けて俺は悪戯っぽく笑う。まあ、口布のせいでほとんど分からないだろうが。それでも細められた目元から、笑っているらしいと察したウソップは訝しげな顔をした。当然と言えば当然か。


「ならよ、お前の誇りはどこにあるんだ?」


首を捻り、未だ理解し難いといった表情を浮かべるウソップ。俺は特に意味もなく空を仰ぎ、こう答えた。


「“ライ”。この名に俺は誇りを持っている」


生きろと意味の込められたこの名以外に、俺は誇れるものを持っちゃいない。



少しだけ、話してみようか


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