悪魔の実の能力者シリーズ:1
(男主人公。オツムが弱い)

トリトリの実 モデル“鷹”

〜ニュース・クーからお知らせ〜
凪の帯への配達がはじまります!

この度、我が社に期待の大型新人「ホークくん」が入社いたしました。
それにともない、凪の帯の一部地域への配達を開始します。
「ホークくん」は通常配達クルーと異なり、大型の鷹です。
見た目はちょっぴり強面ですが、非常に穏やかな性格ですのでご安心を。

広げた翼でどこまでも!
世界の最新情報をあなたにお届け!
これからもニュース・クー社をよろしくお願いいたします。
※凪の帯は通常配達海域から大きく外れるため、料金が異なります。あらかじめご了承ください。




 吾輩は悪魔の実の能力者である。名前はホークくんなどではない。

 まあ今はホークくんて呼ばれ過ぎてそっちに慣れちゃったんだけどね? 本名で呼ばれてもたぶん反応できない。慣れって怖い。
 おれは歴とした人間だ。しかし、たまたま手に入れた悪魔の実とたまたま壊滅的に相性が悪かったのか、おれは鷹の姿から元に戻れなくなった。踏ん張ってもダメ。力を抜いてもダメ。海にでも落ちればさすがに戻るだろうが、ほぼ確実に死ぬのでやっぱりダメ。
 そうして行き倒れていたところを社長に拾われた。それに関しては感謝しているのだ。生肉生魚を頑なに拒み、社長のランチを横から突つくおれに人間と同じ食事を与えてくれたことにも感謝している。
 しかし、しかしだ。ちっちゃなカモメさんたちと一緒に配達の訓練を受け、ようやっと研修期間を終えたところで先ほどのチラシ。舐めとんのかこのジジイ。と、おれは言いたい。

「というわけで凪の帯へ行ってほしいんだが」
「ケーーッ!!(っざけんなてめえ殺す気か!!)」
「なんという気合いのこもった返事……!! そうか、行ってくれるか! さすが我が社期待の大型新人! いや大型新鳥?」
「ケーーーーッ!!!(舐めとんのかこのジジイ!!)」

 魂の咆哮も哀しいかな、百八十度都合のいい方向へ解釈されてしまい、意味を成さない。
 凪の帯は海王類の巣窟。それも穏やかな海に守られ、好き放題に育った超大型が山といる。いくら空を飛んでいようと安心はできない。おれはジジイをどつき回した。

「ホークくん、また社長に遊んでもらってるの? あ、これ配達先のアマゾン・リリーの永久指針ね」
「ケッケッケッ」

 そういう大事なことは先に言ってくれ。

 かくして、おれは己が出せる最高飛行速度で“女ヶ島”アマゾン・リリーへと飛んだ。新聞は欲しいけれど、外海へはなかなか出れないの……と困っている女性がいるのなら助けなければなるまい。
 下心? 見くびるな。九割だ。残りの一割にはおれの善意を込めた。

 ニュース・クー社の人間社員が着る制服に、カモメたちとおそろいの制帽。胸の前に提げた鞄には“NEWS PAPER”の文字。これならどこからどう見ても新聞配達員だ、と思うだろう。
 ところがどっこい。中身が巨大な鷹だと格好より先に“なんかデカイ鳥が来た”としか思われない。偉大なる航路なんかを進む獰猛な船乗りには九割の確率で攻撃される。さらに野蛮な海賊なんかに会った日には“焼き鳥にしようぜ!”とか言われる。冗談じゃない。
 この由々しき事態に対抗するため、編み出された策がこちらです。

「な、何!? “空から紙が降ってきたの巻”!」
「敵襲か!?」
「ううん、違うみたい。ここにニュース・クーって書いてあるもの」
「ニュース・クー? 凪の帯へは来ないはずじゃ……」

 社長が大量に刷ったおれのチラシを先にバラまいておく。こうするとおれが近づいても“ああ、これがチラシの”と分かってもらえるのだ。
 現に、弓を構えていた美女……うーん、三人ということにしておこう。美女三人は警戒態勢を解き、おれが降りてくるのを待っている。さらに異変を察知したらしい数多の美女が、おれの着地点に集結し始めたではないか。
 す、すげえぜ、これが伝説の女ヶ島……!

「これ! ニュース・クーが来たとは本当なニョか!?」

 美女、美女、肌色の海。これぞこの世のパラダイスと拝み倒すおれの前に、人混みをかき分けて一匹の婆さんが現れた。そして、おれは冷静さを取り戻した。
 そうですここは女ヶ島です。ダイナマイトなお姉さんだろうが赤ん坊だろうが婆さんだろうが、老いも若きもすべて女性です。ホークくんよ、紳士であれ。

「ケッ」
「おお! 本当に新聞ではニャいか! これからはこのアマゾン・リリーまで配達してもらえるニョか?」
「ケッ!」
「それはありがたい。これで世界ニョ情勢を、この島にいながらにして知ることができる」

 胸の鞄から新聞を三部ほど、嘴で取り出して婆さんに渡す。さらに料金表を見せて代金を徴収。この国は通貨がベリーではなくゴルだからな。あらかじめ社員ちゃんに作ってもらった。仕事はきちんとやる男。それがホークくんです。

「それにしてもキレイな羽ね。誰かが世話しているのかしら」
「わ! すごいスベスベ!」
「ちょっと、勝手に触って大丈夫なの?」
「大丈夫よ。この子、とってもおとなしいもの」

 だから、これは危険な凪の帯を渡り切り、無事に新聞を配達したおれへのご褒美なのだ。あっちからこっちから手が伸びて、ちょっと遠慮はないが美女がおれの羽を撫でていく。嘴を掻かれるとくすぐったいのだが、悪い気はしない。全然悪い気はしない。料金以上の報酬だ。スバラシイ。
 お礼に、社員ちゃんから持たされていた手配書の束を渡した。本当は何かあったときの交渉材料にと渡されていたのだが、別に構わないだろう。なんでも“ちょっと言えない確かなスジ”から入手した情報だとかなんだとか。おれにはよく分からない。断じて鶏頭なわけではない。

「ケッ!」
「んー? まだ何かあるの?」
「マーガレット! これは“ルフィの手配書の巻”よ!」
「本当か!?」
「大変! 蛇姫様に献上しなくちゃ!」
「ありがとう、ホークくん! 蛇姫様もきっとお喜びになられるわ!」

 なんかよく分からんがものすごく喜ばれた。さすが、世界を股にかける新聞記者の情報網。あなどれんな。
 ああ、頬ずりまでされるとさすがのおれも恥ずかしさの方が勝るのですが……ありがとうございます。おれもう風呂入らない。この姿になってから入れたことないけど。

 こうして、凪の帯への配達(アマゾン・リリー限定)に味をしめたおれは積極的に凪の帯(アマゾン・リリー限定)へ飛ぶようになった。
 それを見た察しの悪い社長が、面白くもクソもないインペルダウンへの配達を言い渡すのは、おれの顔がそれなりに知れ渡ってからのことである。合掌。



拍手ありがとうございました!

(お返事はRe:にて)

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