幽霊主人公とマストの住人たち
OP 2014.05.11 (Sun) 22:49


生まれつき体が弱く、風邪をこじらせてぽっくり逝った主人公が成仏し損ねた話。

主人公の島では古くからの習わしで、死者の体は大地に還し、魂は海に還すものとしている。一晩、死者の胸に名を刻んだ石を抱かせ、その石に魂を移す。そして遺体は土に埋め、石は小舟に乗せて海へ流す。魂の乗った舟は幾日、幾週、幾月と波に揺られ、やがて海底へと沈んでいく。そうして海に還るものとされていた。

ところがどっこい。主人公の魂が乗った舟が沈むより先に、到底沈みそうにない大きな大きな白鯨船に拾われる。マストにはずらりと足のない“息子たち”が並んでおり、どこの幽霊船かと思ったら白ひげ海賊団だった。
船の上で闘いの最中に死んだ者、志半ばで病に倒れた者、はたまた船を降りて死んだ後に舞い戻った者などなど。みんな親父と兄弟とこの船が好き過ぎて成仏できずに集まってしまったらしい。
死出の旅は急ぐ旅でもなし。迎えが来るまで好きにやるさと陽気な幽霊たちだった。

小舟に乗っていた萎れた花や酒、名前の書かれた石から死者の舟ではないかということになり、親切心で再び海に還されそうになる主人公。ここらは海王類が多いからと、もう少し穏やかな海流を見付けるまで第一発見者のハルタの部屋に置かれる。

生きている頃は体が弱く、叶うことのなかった船旅。マストの住人から聞かされるおとぎ話のような冒険譚に「このまま成仏するなんてもったいない」と一念発起。ハルタの枕元に立って石を海に流さないようお願いする。しかし目が覚めてから死者の怨念だと騒ぐハルタ。このままだと逆効果にしかならないと頭を抱えていたところに一人の男(幽霊)が現れた。

「俺からも頼んでやろう。聞くかは分からねえが、まあお前だけよりはマシだろう」

口数の少ない無骨な男。その晩、主人公と二人でハルタの枕元に立つ。

「ようハル坊。久し振りだな」
「なん、で…あんたが…」

無骨な男は今は亡き二番隊隊長。なかなか自分の後釜が決まらないことが気がかりで成仏できずにいた。隊長が言うならとハルタも了承し一件落着。ただ、依り代のない分、存在の希薄な隊長のことは起きたときには覚えていなかった。懐かしい人に会った気がする、くらい。

それから始まる楽しい船旅。基本的に生きている人たちとの交流はないし、怪奇現象もない。マストの住人はいつでも陽気。親父が大好きで兄弟が大好きでこの船が大好き。やがてエースがやって来て二番隊隊長に決まっても、「あんなひよっこに俺の隊の隊長が務まるもんか」となんやかんや未練を作って船に残る元隊長。

魂は海に還るという主人公の話を聞き、親父も人はみな海の子だと言ってたしなと気に入るマストの住人。

「俺たちはもう素直に成仏できそうにねえから、向こうに逝けるとしたらモビーが航海を終えるときだな」
「向こうまでモビーで乗り付けてやればそりゃあ楽しいだろうよ!」
「おいおい、それじゃあ天国から追い返されるんじゃねえか?」
「バーカ。海賊が天国なんかに行けるかよ」
「ああ、違いねえ!」
「僕だけ天国?それだと寂しくなるなあ」
「安心しろ。海賊船に乗ってるお前も立派に地獄行きさ!」

死後を楽しむ主人公とマストの住人たちによるほのぼのゴーストライフ。のちに大泣きしながらサッチを迎え入れ、モビーの魂が海に還るその日まで旅は続く。


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