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 事実、ナガト三尉とアカギ三尉が所属しているヒュウガ隊の人間とは、どういうわけか会うことができなくなっていた。表立っては彼らと共にプレートを渡っていることになっているから、ヒュウガ隊の隊員はすべて軟禁状態に近い。だが、それにしたってやりすぎだ。公然の秘密となっているにも関わらず、面会は不可、加えて艦長ヒュウガの所在は頑なに隠されている。
 誰に聞いたところで答えはくれない。ならばと、ソウヤは強硬手段に打って出た。

「よーっす、スズヤ。元気にしてっか?」
「――は? え、ちょ、ソウヤ一尉!? なにやってるんですか!?」

 いつもの気軽さで扉を開け放ったソウヤの姿に、ベッドに寝転がっていたスズヤが読んでいた本を取り落とした。慌てて跳ね起きた彼の眼鏡は、さながら漫画のようにずれ落ちている。ぼさぼさの頭といい、剃られていない無精ひげといい、この部屋の様子も相まって、これではまるで囚人だ。
 部屋の窓に取りつけられた鉄格子を一瞥し、ソウヤは舌打ちした。ここは、本来のスズヤの部屋ではない。外側からの鍵しかない、監察室と呼ばれる部屋だ。この部屋の目的は、言わずとも分かるだろう。

「よお。遊びに来てやった」
「いやいやいや、遊びにって、そう簡単に来られる状況じゃなかったですよね。ね。ほんっとどうやったんですか」
「あー? まあ、ホラ、あれだよ。食事係いんだろ。そいつをな、こう……」
「脅したんですか」
「脅してねぇよ、人聞きわりぃな。この俺がわざわざお願いしたんだよ。『おねがぁい、スズヤくんに会いたいのぉ』って、とびきりかわいくな」
「なんですかそれ、ケツに銃口突き付けられるより遥かに怖いですね」
「しばくぞテメェ」

 精一杯の裏声を使ってやったというのに、スズヤは本気で怖気立ったように両腕をさすっていた。そんなくだらないやり取りはどうでもいい。ぐるっと部屋を見回し、本題に移ろうとソウヤは表情を引き締めた。
 すかさずスズヤがベッドから降り、代わりに座るよう勧めてくる。遠慮なくそこに腰を下ろし、床に座った眼鏡の男を見下ろした。

「で、なぁんでこんな状況になってんだ?」
「ははっ、それはおれが聞きたいですねー。しばらく前に突然ここに突っ込まれて、それから週一でしか風呂入れてないんですよ。もう気持ち悪いのなんのって。あ、メシはまぁ、いつも通り食わせてもらってますけど」
「あー、どーりでクセェのな」
「ひっど! 泣きますよ」
「おう、泣け。俺は人様泣かせんのが大好物だ」

 組んだ足に肘をついてにやりと笑えば、なにかを思い出したのかスズヤは眉根を寄せて項垂れた。大方、入隊時の壮絶な思い出でも振り返っていたのだろう。あのときは本気で泣かせにかかった。ハルナもスズヤも一筋縄ではいかない相手だったので、ひどく楽しかったのをソウヤも記憶している。
 とはいえ、そんな思い出話をしている暇はない。ガシガシと頭を掻き毟ったスズヤは、肩に散ったフケを払いつつ鉄格子を見上げて苦く笑った。

「未だにおれ達の処分は決まらない。連帯責任で処分するなら、もうとっくになにか下りてきてもいいはずでしょう。それがないのにこんな場所に閉じ込められて。……緑花院(緑花枢密院)でなにか起きてんですか?」
「――軍上層部とは取らずに、いきなりそこにいくか」
「ははっ、だって一尉。軍内部でなにかが起きてるのは考えるまでもないじゃないですかー。だとしたら、そのさらに上。議会か、内閣かってとこでしょう。んで、しゃしゃり出てくるのは上院の連中か緑花院くらいなもん。でもここ最近、急成長を見せているのが緑花院のお偉いさんでーって考えると、そうかなって」

 消防班に収めているのは惜しい男だと言ったのは、誰だったか。
 へらへらと笑うスズヤは、ぐっと伸びをして胡坐を掻いた。上官を前にしているというのにこの態度だ。いつものことなので気にならないが、どうにも自棄になっているような気がして落ち着かない。


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