▼明るい未来の話し


「リヴァイ、お願いがある。」
「なんだ」

もぞもぞ、と2人で寝るには少し狭いベッドでハンジはリヴァイを見つめた。

「わたしに、何があっても、前を見ることをやめないで。」
「?どういうことだ、そりゃあ」

リヴァイがそれ以上聞いても、ハンジは微笑んでいるだけだった。





「本当にあの時はどうなるかと思ったね」
「チッ…」
「なんで舌打ち?!」

巨人になったロッド·レイスを殺し、娘であるヒストリア·レイスが女王に戴冠してからというものの、調査兵団の生き残った上層部は忙しい毎日を送っていた。
もちろん一般兵と違い調整日などない。
毎日長い会議や実験の繰り返しだ。
少し寒くなってきた、冬の始まりの頃の話である。

リヴァイの舌打ちを、納得しないように唸るのはハンジだった。
2人は元々恋仲である。
しかしお互い調査兵団幹部という重い立場であり、忙しい立場である。
毎日会うのも勿論難しいのが普通であった。
しかし、王政を引っ繰り返し事実上壁の中の実権を握ったに等しい戦いが終わってからというもの、忙しくても何があっても夜だけは2人で過ごしていた。
ソファに座って、紅茶を飲む。

「派手にやられた割には治りが早いじゃねえか」
「まあね。思ってたよりあんまり強く打ってなくてよかったよ。じゃないとこれからに支障が出る」

ハンジがそういって拳をぎゅっと握りしめた。
リヴァイは、その右手の拳を少し見つめてから少し、ハンジの拳に自分の手を重ねた。

「!」

滅多にない珍しい行動にハンジは目を見開いて少し驚いたが、すぐに優しく弧を描くように目を細めて、リヴァイの手に左手の平を重ねた。

「リヴァイって、アッカーマンって姓だったんだね」
「そうらしいな」
「ミカサの親戚かな?」
「…たぶんな。おそらく、ケニーはもっと沢山のことを知っていた。王政のことも、アッカーマンという姓のことも、アッカーマンって名前のやつが妙に力が強いこともな。」

リヴァイの表情に影が指した気がして、ハンジはリヴァイの手のひらを優しく撫でた。
リヴァイはちいさく溜め息を吐いた。

「ねえ、リヴァイ。」
「なんだ」
「生きてて、よかった。本当に」
「…もう、あんな事言うな」

ハンジが優しく言ったのに対しリヴァイがハンジにしか分からないような微妙に不貞腐れたような表情をしているので、その予想外の表情にハンジは疑問を浮かべる。

「あんなこと?」
「この前、言っただろ。ヤッたあとに…」
「?…ああ!あれのこと?」
「お前が怪我した時…心臓が止まるかと思った」

リヴァイの手に少し力が籠るのがわかる。
ハンジは、リヴァイに自分の身に何があっても振り返るな。と言ったのだ。戦闘中怪我しても、最悪死んでしまっても、自分を置いてでも人類のために戦えと。
勿論リヴァイも、それが正しいことは分かっていた。
地下街で死に物狂いで毎日を生き抜き、やっと地上に出て初めて出会った最愛の人。それは、リヴァイの僅かな理想とは掛け離れた女性ではあったが。
それを置き捨てろと。言われたのだ。

「もう言わないよ。だから怒らないで。だからさっきも舌打ちしたんだね。」
「…」

ハンジはそう言ってリヴァイの手から手を離して、その手で彼を抱きしめた。
強くではなく、優しく。母が子供をあやす様に。
リヴァイはそれを大人しく受け入れる。

「ミケも、ナナバも、リーネも、みんなを失って、悲しいと同時に心底怖くなったんだ。貴方も失いそうで。私も死ぬんじゃないかと思うと、怖かった。こんだけ長く生き残ってきた仲間が、死ぬわけないって心の何処かで思ってた。でも、違うって改めて教えられたよ。分かってたはずなのに。」
「…ああ」

ハンジの話しにリヴァイは小さく応える。

「だから、明日も明後日も貴方と生きたい。生きていたい。死にたくない。全部終わって、貴方と暮らすのが私の夢。それにプラスで巨人のいない壁の外の世界をのんびり旅できたらもう最高!」
「そりゃ、いいな」
「でしょ!貴方と田舎でひっそり暮らすのもいいな、とか。壁の外を旅したいな、とか。考えるだけでわくわくするよ」

ハンジがリヴァイの背中から腕を離して、巨人の話を語る時のような少し興奮気味に話すのを見て、リヴァイは口元が綻んだ。表情筋の固いリヴァイが、優しく微笑んだ。
リヴァイの表情を見て、ハンジは嬉しくなり、さらに話を続けた。

「夜分遅くに申し訳ありません!」

ドンドンという木の扉を叩く音とともに張り詰めた声に、ハンジとリヴァイは瞬時に険しい表情になる。

「リヴァイ兵士長宜しいでしょうか」

扉を少し開けて、リヴァイは半身だけ外に出し、部下と話す後ろ姿をハンジはソファから見つめた。
思わずゴクリと唾を飲む。
少ししてすぐにリヴァイが扉を閉めた。彼の手には2束の紙が持たれている。

「大したことねえ。明日の会議の資料だ。先に目を通せだと。」
「なんだ、よかった。」

一応壁の中の動きは収まったもののいつ、いかなる時に何が起きるか分からない。糸がピンと張ったような緊張感の中だ。不安になるのも当然だった。

「ハンジ寝るぞ」
「え、資料は?」
「明日の朝でいいだろう。今日は巨人のことはもう考えたくもねえ。」

そう言ってリヴァイは机の上に資料を起き、2人で寝るには少し狭いベッドに座りポンポンと布団を叩き、ハンジに来るように促す。

「さっきの話の続き、聞かせろ」
「…!任せてよ」

そう言うとハンジはまたリヴァイとすべて終わった後の世界の話しを、ふたりの明るい未来の話しをした。
ベッドに潜り込んで、明かりを消して、自然と寝てしまうまで、2人はずっと、幸せな夢を描いた。





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