▼たまには紅茶も悪くないね

嫌いだった。
必ず、別れの時間というやつは訪れる。
俺は、待ってばかりだった。
見送ってばかりだった。
寂しくて辛くて独りは嫌いで
どうして俺は連れってってくれないのだろう。
どうして俺から会いに行けないんだろう。
どうして俺は待ってばかりなんだろう。





「撃てるわけねーだろ…ばか…」

そう言って崩れ落ちて、涙を流す君を俺は初めて見た。
ああ、あんなに優しく微笑んでいた君も、涙を流すのか。
空から降り注ぐ雨か涙かも、分からないけれど。
崩れ落ちる彼を抱きしめられない。
あんなに大きな背中だったのに。
あのときはとても小さく感じた。

それからは寂しさを忘れるほどの忙しさだった。
あんなにひとり家の中で彼が来るのを待っていた独りぼっちの俺はもういなかった。
国力を上げて、当時世界一の大英帝国に追いつくためにひたすら働いた。
そうすれば、彼に認めてもらえるような気がした。
独立してから疎遠になった仲も、戻るような気がして。
でも気付いたら世界中戦争で、彼の国の国力もすっかり弱りきって、俺は少し絶望した。
超大国だと思っていたのに。
いつの間にかあっさり超えてしまっていた。
気づけば俺は狡賢い大人になっていた。
感情よりも国力を優先していた。
自国が豊かになることだけ考えていた。
俺は彼の隣に立ちたかっただけなのに。
遠いと感じていた背中が、気づけばより一層遠くなっていた。



「やあ!アーサー」

イングランドの田舎町に彼の家はあった。
普段はロンドンで仕事ばかりしているが。
彼は小さな一軒家に住んでいて、広めの庭にはたくさんの花が咲いている。
家の塀からじゃ彼の姿は確認出来ない。
きっと花の手入れをするためにしゃがみこんでいるんだ。
俺はそんな彼にそっと近づいて、声をかけた。
彼は驚いたように顔を上げた。

「アル!お前また連絡もなしに…」
「細かいことは気にするなってー!ほら!お土産にドーナツ持ってきてやったんだぞー!」

そう言って手土産を彼に見せて紅茶を催促すると、彼は溜め息混じりに微笑んだ。
仕方ないなあ、と腰を上げて少し泥を払って2人で家の中へ入った。
彼の紅茶を入れる背中を眺める。
あの時と変わらない背中に何だか嬉しくなる。

もう、俺は彼を待つだけの子どもじゃなかった。

彼の元へ訪れることができるんだ。

「あんまジロジロみるなよ」
「いやー変わらないなと思って」
「なっ!お前がデカくなりすぎなんだよ…」

彼はぶつくさ文句を言いながらティーカップに紅茶を注ぐ。
俺は彼への反抗にコーヒーを飲み出した。
でもいまではすっかりコーヒー派だ。
でも、たまには紅茶も悪くないね。

紅茶の優しい香りが昔の風景とともに、優しく俺を包み込んだ。






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