▼いとしくて、いとしくて、虚しい

虚しい とは
空虚で、内容がないこと。
むだである。かいがない。はかないこと

辞書を何となくペラペラと捲っていると、その言葉に目が止まった。

何だか感じたことある気持ちだなあって思った。
虚しいは寂しい 寂しいは悲しい

「何してんの」
「ベル」

頭上から声がして、顔を上げると同僚のベルフェゴールがいた。彼が書斎に来るのは、実に珍しいことだ。

「あ、返してよ」

ひょいっと簡単に僕の辞書を取り上げて彼は物珍しげに眺めていた。

「これ、日本語の辞書じゃん」
「そうだよ」

いいから返して、と辞書に手を伸ばしても、僕と彼とでは腕の長さも身長も違いすぎて勿論届く訳もない。
取り返すのは諦めて彼が飽きるのを待とう、僕が溜め息を漏らすと、ぽーんっと辞書を近くのソファに放り投げて、後ろから僕の首に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。

「なあマーモン」

いつ、虚しいって感じたの?
彼が耳元で囁いた。


人を殺したとき。
その人間の体温が、徐々に失われるのを知ったとき、恐怖にも似た感情を感じた。
今まで殺して、見向きもしなかった死体にはじめて触れたとき、そこにもう何も無いことを悟った。
それは、虚しい、だった。
このどうしようもない虚しさを何処に仕舞えば良いのか分からなかった。
冷たくなった身体の触れ方が、分からなかった。
虚しいが怖くて、感じたくなくて熱を、体温を、温もりを求めた。
求めて、身体を重ねた先にも、やっぱり虚しさしかなかった。

「マーモン、えっちする?」
「夜になったらね」

果てた先の虚しさを知っているのに、それでも求めてしまうのは、生きている証のような気がした。
彼に触れるのも、触れられるのも、いとおしく感じて、その一時の熱に愛を感じて、その後の虚しさをも享受してしまう。

「たんのしみ、ししし」

嬉しそうに笑う彼に僕はそっと口付けをした。





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テーマ「人外ファンタジー」
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