▼ああ、気にくわない


きみはいつもいつも戯れ言ばかりだ。
どうして、こうも僕を苛つかせることばかり言うのだろうか。
八年前の中学生の頃から変わらない純粋で真っ直ぐなきみの瞳を見るのは些か辛く思う。
はあ、と溜め息を漏らす。

「骸の力が必要なんだよ」

あんなに嫌がっていた強大な力を持つマフィアの若きボスになる。
それもこれも、マフィアをよくするためにだという。

「僕が何をしてきたか知っていますか?」

僕はまあ人には誇れるようなことはしてきてはいない。そこに後悔とかはないけれど。
信用されるような人間では決してない。
特に、この目の前の沢田綱吉には。

「でも、もう八年も前から俺の守護者って決まってるし…」

八年前に継承式が行われて、そこから最終アルコバレーノの戦いにまで発展し、その後何とか平和になったであろう彼の周辺。
結局その日からボスになるのに八年を有した。
彼自身がきちんと勉強に向き合うと決めたらしい。
ボスになるのには納得いかないとはいえど、とりあえず勉強をすると、決意した彼は継承式を終えた後も9代目にボンゴレを一時預けるという形で月日は流れていた。

「それに、俺は骸が何をしてきたか知らない。」

全てを見透かすような瞳に思わず視線を外した。
目を合わせると、僕の何もかもを露わにされるような気がした。

「頼むよ。明日だよ?継承式!」

もう1度執り行うことになった継承式前日にわざわざ僕の前に現れた沢田綱吉。
勿論その前から何度も手紙が届いたが全て無視していたせいだろう。

「僕は、今までもこの先も君のために動く気はありません。」
「少しも?」
「少しもです。」

そっかあ、仕方ないなあ。と沢田綱吉はあからさまに肩を落とす。
何だか少し悪い気がしてきてしまう。
勿論、顔には出さないが

「明日、待ってるよ。」
「僕の話、聞いてました?」
「でも、来てくれる気がするから。」

彼はそう言ってにっこりと笑った。
そして妙に大きなスーツケースだなあと思っていたものを、僕に無理やり渡して去ってしまった。
彼の残したスーツケースには明日の衣装であろう、黒のスーツが入っていた。もちろんピカピカの一般人では手にも入らなそうな高級品だった。
何を根拠に僕をこうも信頼出来るのだろう。
僕のしてきた事を知らないと言ったのだ。
きっと彼は馬鹿だ。知らないわけがない。
八年前、たしかにきみのからだを乗っ取ろうとしたというのに。

「待ってるよ」

なんとも、温かい言葉、優しいほほえみ。
どうして彼はこうも僕を苛つかせるのだろうか。
何でも自分の力で手に入れようとしていた僕が今まで手に入らなかった、たった一つの言葉。
自分が受け入れられている、必要とされていると、感じられる言葉。
昔、1度感じたことあるような愛情のこもった微笑みと、似たものを感じて

「ああ、いらいらする。」

僕はケースからぴかぴかのスーツを取り出した。





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