▼Ich liebe dich.



どんなに高揚した愛も
永遠だと信じた愛も
時には憎らしいものに変わる、と実感した。

「ストロンツォ!オメーなんか嫌いだコノヤロー!」

ほら、普段は可愛い恋人も、今は怒号を上げて汚い言葉と物を散々に投げてくる。
最初は袋に入ったパスタやまだ開けてないチーズやベーコン、胡椒、終いにはフライパンまで。
最初に投げたフェットチーネは袋が開いていたせいで宙を舞ってぺちんっと床に叩きつけられる。

「早く出ていけコノヤロー!!!」

バンッッ
ドイツに比べれば温暖な気候ではあるが、やはり外に出されると白い息が出るほど冷えきっていて、寒いなあ、と力いっぱい閉められたドアに背を預けてぼんやりと思う。
唯一の救いは上着を持たせてくれたことくらい。
何度目か分からない溜め息を漏らした。

「ケセセ…寒すぎるぜー…」

俺は持っているらしい。
幸運にも、外に出されて1時間ほど、

「あれ、ギル?何してんの〜寒くない?」
「フェリちゃん…」

まるで天使。いや、女神か。
寒空の中、帰宅してきた彼は鍵をガチャリと簡単に開ける。中なら暖かい空気がふわりと出て身体を包む。

「兄ちゃんと喧嘩したんでしょ、もう」

フェリちゃんはそういうとドアを閉めてコートを脱ぐ。
進んでそのままキッチンに行くと、散乱したものを見つけたフェリちゃんは振り向いて俺を睨みつけた。

「あーあ。パスタが…」

フェリちゃんは特にひどく散乱したパスタを拾い集めている。

「これ以上、被害を出したらギルがぜんぶ弁償してよね。」

フェリちゃんはそう言って拾い集めたパスタをテーブルに乗せて、俺の背中を押して2階へ続く階段の前まで連れていった。

「兄ちゃんは拗ねたら大体布団にくるまって出てこないんだよギル。これくらいの責任はとってよね」

フェリちゃんが急かすように背中を押して、そのままキッチンに戻って行った。
フェリちゃんも大概兄貴想いだなあと思いながら階段を上る。
2階に来てみたもののロヴィーノの家に来るのは初めてで何処にいるか分からず適当に部屋を開けては閉め、開けては閉めを繰り返す。
最後の一つになったドアを開ける。
ごちゃごちゃと乱雑に積み上がった本や缶、ビン。
整理しきれてない手紙やドアの開いたキャビネットからは上等なスーツが覗いていた。
紛れもない、ロヴィーノの部屋だ。
その一番奥の唯一綺麗なベッドに向かって、綺麗に1本だけ床の見える道ができている。
道を進み、ベッドの端に腰掛けた。
盛り上がった毛布にそっと触れると、腰に蹴りが入った。

「何しに来たんだちくしょう」
「いってぇー…」

お前なんて嫌いだちくしょう、と涙声で言うロヴィーノ。やっぱり憎たらしいところもあるが、可愛い恋人だと思った。
毛布をしっかりかぶっていて表情は分からないけれどきっと泣いている。

「ロヴィーノ、悪かった」
「…」
「お前は掃除も絵も下手だしすぐ泣くし愛想も口も悪いし、取り柄なんか料理と農業くらいしかないけど」
「てめえ謝る気あんのかこのやろー!!」

俺の言葉を遮ってロヴィーノは、耐えきれないと言わんばかりに毛布からガバッと起き上がった。

「最後まで聞けって」
「ふん、どうせお前も弟の方がいいんだろ。妥協で俺なんだろ」
「違ぇよ。それだけはねえ。絶対ねえよ。つまり俺が言いたいのは、どんなお前でも俺はお前が好きだし。お前自身が自信のないところとか全部含めて好きって言いてえの」

不貞腐れた顔をしていたロヴィーノの顔が見る見るうちに赤く染まるのを見て、釣られて顔が熱くなった。
なんか、ものすごく恥ずかしいことを言った気がする。
けれど一度出た言葉は訂正もできず、もちろんする気もなく、ぜんぶ言ってしまおうと思った。
ロヴィーノは最初は不貞腐れて、今は恥ずかしくてだろう。目を合わさない。
俺はロヴィーノの手に手を伸ばして、握りしめた。

「ごめんな。フェリちゃんと比べるような言い方して。でも、俺はフェリちゃんがいいとかでも妥協でもねえから。第一、ロヴィーノじゃなきゃ男と付き合ったりなんかしねえ」

俺がロヴィーノの手を一層強く握りしめると、ロヴィーノもゆっくりと少しぎこちない感じで握り返した。

「お、俺だって、お前みたいな芋くさいやろーは、本当はお断りなんだからなっ」
「わかってるって」

ロヴィーノがちらっと俺のことを見て可愛いことを言うもんだから、思わず抱きついた。
最初は俺の腕の中で少し抵抗を見せたが、そのまま大人しく抱きしめられたまま、俺の服の袖を、きゅっと握りしめてくるのが愛おしくて、何故かなんとなく、泣きそうになった。





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