▼shoot out

※現パロ
※食などの文化は日本です


「よろしくおねがいしまぁす」
「…よろしくおねがいします」

甘ったるい声交じり1つ明らかに怠けの混じった声。
私は、どうしてこんな所に来てしまったのか。

「お願い!1人約束してた子が彼氏できちゃって人数足りないの!座ってるだけでいいからさあ」

国立大学の遺伝子工学部で研究漬けの毎日を過ごしてた私に、思いもよらない誘いが舞い込んだ。
手を合わせて上目遣いで、それ女にもする?って思いながら、他学部の殆ど話したこともない女の子2人から懇願される。
私は何度も断ったが、授業が始まる時間になっても離してくれず仕方なく了承して授業へ向かって走っていった。
のが、運の尽きである。
男女3人ずつで合コンということで個室居酒屋に連れてこられ、1番端の席で酎ハイを飲んだ。あまり酔いたくない。というか酔える気もしなかった。
私のことを誘ってきた2人はそれぞれ男の横をキープしている。
私は余った目の前の人の相手、となるのだろう。
相手が私にどんどん質問を投げかけてくる。

「ちょっとお手洗い」

私はそう告げて鞄を持って席を外した。
トイレを済まして、手を洗ってから手洗い台に手をつくと、盛大な溜息が漏れた。
一夜漬けの実験よりも、1万字のレポート作成よりも疲れる。

「帰ろ」

余り物の男の人には悪いけど、と思い私は店を出た。
どうせお金は男持ちってことになるんだろうし。

ガラッと店の引き戸を開けて外に出た。

「あ」
「……」
「えー、っと、アッカーマンさん?」

帰ろうと暖簾を潜ってすぐに目に入ったのは私と1番離れた席、対象線上にいた男性だった。
そういえばこの人も明らかやる気無さそうで、目が死んでた。でも私を引っ張ってきた女の1人が腕を絡ませながら話をしてたっけ。
彼は煙草を吸っていた。

「リヴァイでいい…お前は、」
「あ、わたし、ハンジ・ゾエ ハンジでいいよ」

彼はそれだけ言うと、ふーっと煙を吐き出した。

「中でも煙草、吸えるよね?」
「もう帰る」

彼はそう言って灰皿に煙草を押し付けてぐちゃっと潰した。
確か、個室の中には既に灰皿も用意されてたはずだ。
わざわざ外で吸う人など彼の他にいなかった。
居酒屋の外にいるのは緊急の電話が入ったサラリーマンとか、飲みすぎで外の涼しい風を浴びに来た顔を火照らせた人くらいだ。
5月の涼しい夜風が頬を掠めるのは肌寒い。

「私も帰ろうと思って出てきたんだ」

彼は座ってた時は分からなかったが案外小柄で、女の割に背の高い私とは身長の差があった。

「家に帰るのか」
「そうだね。やることないし。貴方は?」
「俺は他の店で飲み直す」
「あ、それいいね。」
「……来るか?おっさんばっかりの場所でいいならな」
「いいの?お邪魔しようかな。飲み足りないし」

私がそう言うと彼は訝しげな顔をした。
もしかしたら社交辞令で聞いてくれただけで本当は1人で飲み直したかったのかもしれない。しかし一度行くと言ってしまったので今更断りづらくなり、歩き出した彼に着いていくしかなかった。
彼について行くとどんどん狭い道に入っていく。
提灯とか看板には居酒屋やスナックの文字が沢山並んでいる。この道だけ時代に残されたレトロな雰囲気だ。


「大学生はまずいねえ、女も殆どいねえ。あとクセェ。それでもいいか。」
「うん、1人だったら多分来ないけど」

何も言わず前を歩いてた彼がある店の前で振り返り確認だけ取る。私が了承すると彼はガラガラと引き戸を開いた。
中からはむわっとした熱気と、おじさんの枕みたいな臭いがした。
それも中に進めば煮物とか焼き物の美味しそうな醤油の香りが鼻腔をくすぐった。

「いまカウンターしか空いてないぞおー」

店の一番奥のカウンターのさらに奥にある開けた厨房から割烹着を着た50代くらいのおじさんが言った。
彼はテーブルとテーブルの間を抜けて奥のカウンターまですたすたと歩いた。
私は何度も肩に軽くぶつかって、謝りながら奥まで必死に着いていく。
彼は1番端の二つの席を取り、私に奥の席を譲ってくれた。

「ネス、焼酎」
「あいよ。お嬢ちゃんは?」
「あ、同じのを」

彼は汗が垂れないように頭にタオルを巻いている。そして、ほかほかの熱く分厚いお絞りを私に渡した。
少し熱すぎて、簡単に手を拭いてすぐに畳んで置いた。
冷えた水割りの焼酎が二つコトンと置かれる。
それと一緒に大根と鶏肉の煮込みとあん肝、鯵の刺身が続々と出された。
冷えた焼酎を口に含むと甘いフルーティな味が広がった。よく見ると彼の飲むのと銘柄が違うようで気を使って女性人気のを出してくれたのかな、と思う。
どの料理も1口摘むと病みつきになりそうなほど美味しい。安心する味だ。煮物はしつこすぎない薄味、でもしっかり味は染み渡っていてお腹にストンと嵌る。

「美味しい!」
「そりゃ良かった。坊主が女の子連れてくるのなんか初めてだからおじさん何出したらいいか迷ったんだ」
「おっさん余計なこと言うな」
「だれがおっさんだ」

店主のおじさんはにこにこと私に笑いかけ、呼ばれるがまま他の客のところに行ってしまう。
私が味わいながら箸を進めていると、横に座る彼に、じっと見られていることに気付き、目が合う。

「くさい店だろ」
「でも、美味しいし。ガヤガヤした雰囲気嫌いじゃないよ」
「そうか」

彼はそれだけ言うと、私から目を逸らしてまた焼酎を飲んだ。
少し嬉しそうな、満足そうな表情に見えた。
実際は目の下に少し隈があって、眉間にシワを寄せて、何だか近寄り難い顔をしているけと。

「ねえ、リヴァイはよくこのお店に来るの?」
「ああ。ガキの時からきてる」

私は沢山彼と話をした。
あまり話さない人のようで、私の質問に答えるか、あとは私の話しを聞くかだった。
でも適当に流しているわけではなくて、しっかり聞いてくれてるみたいで、時々質問や意見も出してくれる。
彼が幼い頃から叔父さんに連れてこられていて、その時は自分専用に店主のおじさんがオレンジジュースを用意してくれていた、とか大学のこと、高校時代のこと、友人のこと、好きな本や食べ物、家がどの辺とか、恋人の話、私の男運が悪くて付き合ってもすぐ浮気されてしまうこと、彼は潔癖症で度が過ぎていつも彼女に振られてしまうこと、私の長ったらしい理屈っぽくて嫌がられる大学でしている研究の話とか、私達は沢山話しをした。
程よいアルコールで脳が麻痺しているのが分かる。
ふわふわしたとても心地の良い空間だった。
私は彼とのお喋りが楽しくて、ずっと笑っていた。
彼は口が悪くて柄も悪くて顔付きも悪人面に見えるけど話の中や、彼のする私を気遣った動作から優しくて不器用な人だとわかった。
だから、嫌じゃなかったんだ。

「リヴァイ、」

私達は店を出てホテルにいた。
アルコールで火照った身体を冷ますように服を脱ぎ捨てて肌と肌が触れ合って。
頭も身体もぜんぶ蕩けるようにぼおっとして、熱かった。


「は、、」

目が覚めた。
朝起きたら見慣れない天井、ちかちかとした配色の安っぽい装飾。
自分がラブホテルにいると気付いたのは起き上がってベッドに座って部屋をぐるっと見回した後だった。

「…ってぇ〜」

素っ裸で布団の上で頭を抑える。
昨日の飲みすぎで完全に二日酔いだった。
横に彼はいなくて昨日の出来事がすべて嘘のような気がした。
でも身体に残る赤い跡や、下腹部の鈍い痛みや、何より断片的に残る熱の記憶が、あれが現実だったことを物語っていた。
ベッドから出て何も纏わないまま部屋を一周した。
トイレを覗いても、お風呂を覗いても、やはり彼はいなかった。
几帳面に畳まれた服しか見当たらない。
私は気づかない振りをしていた虚無感に襲われて、自分の身体を抱きしめた。
何だか、無性に寒くて淋しかった。

「はあ…」

溜め息を大きく漏らして私はお風呂に向かった。
軽くシャワーを浴びてタオルで身体を拭いて、殆ど濡れたままの髪の毛を適当に縛って服を着た。
ワンピース、キャミソール、靴下、下着という順に綺麗に畳まれた服を上から順に着ていく。上着はしっかり壁にかけられていた。
ワンピースに手をかけたとき、ひらりと紙が地面に落ちた。
拾い上げた紙には端然とした文字で電話番号だけが書かれていた。
ホテルを出て家に帰り私はもう一度お風呂に入った。
そのあと新しい服に着替えて、適当にパンを食べてから鞄を持って家を出た。
大学に行き、午後からの講義を受けて夕方。馬鹿みたいに大事にとっておいた紙に書かれた電話番号に、恐る恐る電話をかける。
スリーコールくらいで、もしもし、と声が聞こえた。
それは間違いなくつい数時間前まで一緒にいたリヴァイだった。

「あ、ハンジだけど。」

私が名前を告げると彼は「あぁ」と言って口を噤む。

「先に帰ってすまない。外せない講義があった。」

彼は簡潔な理由とともに謝罪をした。
嘘には聞こえなかった。
私は大学の中庭のベンチに座って彼の謝罪を許した。

「今度、映画に行かないか」
「何か観たいのでもあるの?」
「そういう訳じゃないが…」
「あ、じゃあDVD借りてうちで観ない?」
「…ああ」

私は彼と約束を取り付けて電話を切った。

「なんで家に誘ってるんだ私は…」

電話を切って数秒してから、私は何だかとんでもないことを言ってしまったことに気がついた。
昨日今日の相手と1晩過ごして、次は部屋に誘うなんて。
思いと裏腹に口元は綻びニヤけた間抜け面を隠すことが出来なかった。
また彼に会えるのか、そうか。と思うと少し浮かれた。
昨日の合コン女より誰よりきっと私は単純で馬鹿なのかもしれないな、と思いながら私は研究室に向かった。





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