ずーーっと一緒だった。
初めて会ったとき、緑色の宝石みたいにきらきらした瞳で家に招かれた。
文化とか、言葉とか、慣れないことだらけで病気になったときも心配してくれた。たぶん。
親分親分って自分のこと言ってて、俺のこと子分扱いなんだ。
いや、と口にしつつもその関係に浸るのは嫌いじゃなかった。
最初は反発こそしたけれど、

「兄ちゃん、これからよろしくね?」

すごく不安そうに俺を上目遣いでみる弟が手を差し出した。
もともと不遇な統一だった。
俺だって驚いた。
だって弟は北で、北の統一をすると、フランシスと手を組んでたのに、
中部の俺と弟の境目、そこを弟が合併した。
そのときちょうど俺のとこでも男が立ち上がってシチリアを統一しちまって、知らんうちに上司と上司が手を取った。
でも完全に下なのは南部の俺だ。
下とか上とかは興味ないけれど、弟との突然の再会。しばらく会ってなかった気がする。
ほとんど他人なのではと思うほど、一緒に過ごした時間は短いのだ。

「…バカ弟よろしくな」

弟の手を握ると、弟は嬉しそうに、ほおを赤くし笑みを浮かべた。
昔っから愛想のいいやつで、みんな弟のことが好きだった。絵を描くのもうまいし、貿易だっておれより上手い。

交わされた手を離して、一旦帰ると言って離れた。
弟といると卑屈になってしまう。

「帰ったぞちくしょーめ」
「おお!ロマーノ!やっと帰ったん。もう俺どきどきしながら待っとったんやからな!さあさあごはんあんで、冷める前に食べよ」

家のドアを開けるや、いきなりのマシンガントーク。
いつもなら、うるせー!って言ってるけど、不思議と心が安らいだ。
リビングで、いつも通り2人向かい合わせに座った。この家もかつての賑わいを失い、今は2人っきりだった。
すっかり慣れたトーニョの家のごはんも、いつもより美味しく感じる。

「なあ、俺…」
「どしたん?ロマーノ」
「ここから出るのいやだぞちくしょー
絶対仕事ばっかじゃねーか」
「ロマーノはいままで何もしなさすぎなんやで」

いつもなら甘い口も、きょうは辛口だった。
平然とごはんを口に運ぶその顔に腹が立った。

「お前が甘やかした結果だぞ」
「うん。知っとるよ。だからいまからちゃんとせなあかんやん?俺かてもう…」

いらって、
爆発するような感じじゃなくて、内側からじわじわじわじわ怒りがきた。
なんで、なんで、なんで?

「お前は、俺が、この家から出ても寂しくねーのかよ!お前、もう、1人になっちまんうんだぞ、俺だって、俺だって、」
「ロマ、もうやめとき。」

ダンって知らないうちにテーブルを叩いてた。
持ってたフォークもどこかに飛んでいた。
トーニョは黙ってフォークを拾った。
何も言うなって俺に言った。
そんな顔されたら、だまるしかない。
立ち上がって新しいフォークを取りに行った。
1人残され、少し落ち着いた。
なんだ、俺、泣いてる。
だって、何百年、一緒に住んだと思ってんだ。
お前は、そんなに割り切れるのか。
だって、いままでたくさんいろいろあっただろう。

「ロマーノ、きょうはひさびさに一緒に寝ーへん?またオモロい話し聞かせたんで」

新しいフォークを渡された。
さ、食べてしまお、とトーニョは言った。
それからは無言で食べた。
でも涙は止まらなかった。
トーニョもそれに何も言わないし、
俺だってぬぐったりしなかった。






「なあ、ロマーノ。最後に一緒に寝たんいつやったかなあ。ロマーノ来た時はめっちゃちっさーて米粒みたいやったもんなあ。いつの間にこんなデカくなってたんやろか」

寝る時、トーニョは昔のように俺の頭を撫でてた。
でも話しは当時の100倍は面白くなかった。
俺はあいつの胸元に頭を向けて絶対あいつの顔は見なかった。
見上げたら駄目だ。って心が言ってた。

「ロマーノ、ときどき、電話でも手紙でもいーから連絡してな。あとお腹いっぱいご飯食べるんやで。フェリちゃんとは仲良くしなあかん。あと掃除も…」
「うるせーよバカ。ちゃんとやってっかお前が確認にこればいーだろ」
「どんだけ世話のかかる子分やねんな、お前は」
「お前が育てた立派な子分様だぞちくしょーめ」

言うとトーニョは、せやな、って笑った。
目蓋の裏が焼けるように熱い。
視界もぼんやりしてきて、
ああ、また涙が。
だれか止めてくれ。

「はなればなれになっても、ずっとお前の子分?」
「あたりまえやで。」

だから、泣きーな。笑って、ロマーノ。
頭上から聞こえた声は甘く優しい。
俺の心を見透かすようにトーニョは俺のほしい言葉をくれる。

トーニョと暮らすさいごの夜。
俺は小さい頃みたいに泣いて、トーニョに撫でられながら寝た。

世界でいちばん愛おしいきみが、
これからも笑顔で暮らせますように、

眠りに落ちる直前に聞こえた言葉に、また涙がでた。


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