はやく、はやく、帰らなくては。
急いだところで、僕の最大速度はたかが知れてる。
いまから焦ったところで、とっくに過ぎているのに。
ヴァリアー本部は人気の無い森の中の古城を買い取って作られたもので、木が密集しており車では通れない。チッと舌打ちを零す。
本部に到着したのは、日付が25日になってすぐだった。きっと不貞寝でもしてるかも、と思いながらトボトボという効果音がピッタリなくらい落ち込んだ僕はゆっくりと彼の部屋のドアをノックした。
少ししてドアがゆっくりと開いた。
中からベルが出てくる。
僕は思わず彼に抱きついた。
「ごめんねベル。誕生日、当日に祝えなくて」
「マーモン、そんなこと気にしてたわけ?」
ずっと言いたかった一言。
毎年毎年、彼の誕生日を祝ってきたというのに。
思わぬ事態で任務が長引いたせいで本部へ帰るのが大幅に遅れてしまった。
イギリスから急いで帰ってきたものの、随分と遅刻してしまっている。
「そんなことより、マーモン。すっげー手冷てー。早く入って温まろーぜ」
ベルはそう言って僕の手を引いて部屋に招き入れた。
温かい電気ストーブの前にベルが持ってきた毛布に2人で包まって暖を取った。
「マーモン。おかえり」
「ただいま。ベル。誕生日おめでとう。遅れてごめん。」
全然気にしてねーよって言って、フード越しに僕の額にキスする辺り、彼は本物の王子様のようだ。
誕生日当日に祝えないなんて前までは駄々をこねたり拗ねそうなことだった。先程だって、少し拗ねてるだろうなと、思っていたのに。いつの間に彼はこんなに大きくなったのだろうと、半ば母親のような気持ちで、感慨深く思う。
「来年も、その先も、祝ってくれんだろ?なら今年くらい全然許せるし」
だって俺、王子だもん。とお決まりの台詞と笑顔で微笑む彼が、とても優しく、とても愛おしく思えた。
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